妊娠・出産とキャリアを巡る問題には、今後も多くの女性が直面し得る。当事者の要望を重く受け止めなければならない。
重要なのは、多様で柔軟な選択肢があることだ。画一的なルールが女性の生き方を制約していないか、将棋界以外でも見直しを進める機会としたい。
将棋の福間香奈女流六冠が、出産予定日前後のタイトル戦を事実上不戦敗とする規定を見直すよう、日本将棋連盟に要望書を送付した。
規定は、対局の日程と出産予定日の前後計14週の期間が一部でも重なる場合、対局者を変更するとしている。
妊娠した人がタイトル保持者であれば、挑戦者と次点の挑戦者が対局する。挑戦者であれば、次点の挑戦者と保持者が戦う。妊娠すると事実上、一定期間不戦敗となる内容だ。
妊娠中の体調や対局への考え方など、個人差を十分反映しているとは言い難い。福間女流六冠が要望書で、規定を「妊娠とタイトル戦の二者択一を迫るもの」と訴えたのは理解できる。
元々、妊娠・出産に伴うタイトル戦の扱いについて規定がなかったため、昨年4月に妊娠が分かった福間女流六冠は連盟と協議を続けてきた。日程が変更されたタイトル戦もあったが、一部の対局は不戦敗となった。
福間女流六冠は自身の経験を踏まえて、規定づくりに乗り出した連盟に対局環境や日程への配慮を求めていた。
だが、今年4月に女流棋士全員に送付された規定には意向が反映されず、「第2子は無理だと絶望的な気持ちになった」という。今回の要望は、後進が「安心して頂点を目指せる将棋界であってほしい」との思いからとも語った。
連盟は要望について「安心して対局に参加できる環境づくりに尽力する」とし、規定を改める姿勢を示した。当然の対応である。
母体の健康を前提にした上で、対局日程や場所の調整など可能な措置を検討してもらいたい。対戦相手に一方的に負担を強いないようにする工夫も必要だろう。
連盟では今年、清水市代女流七段が会長に就き、史上初の女性会長が誕生した。
女流タイトル戦の最高峰「白玲戦」を通算5期獲得すれば、女流とは制度の異なる棋士に編入する制度もできた。
女流棋士がより活躍できる基盤を整える好機だ。連盟は当事者本位で見直しを図ってもらいたい。
