どのような理由であれ、人の命を奪ったことは決して許されない。被告は罪の重さをしっかりと受け止めてもらいたい。
事件を機に注目を集めた教団への高額献金問題や、政治家との接点が十分に解明されたとは言い難い。信者を親に持つ「宗教2世」の救済も求められる。
2022年7月に奈良市で参院選の応援演説中だった安倍晋三元首相を銃撃し殺害したとして、殺人や銃刀法違反などの罪に問われた山上徹也被告の裁判員裁判で奈良地裁は21日、無期懲役の判決を言い渡した。
検察側の求刑通りの判決だ。地裁は起訴内容全てを認めた。判決理由で、多くの聴衆がいる中、複数の弾丸を発射したとして「悪質性や危険性の高さは、他の事件と比べても著しい」と断じた。
安倍氏に落ち度が見当たらない一方で、被告の他者の生命を軽視する態度が顕著だとした。
被告も殺人罪の起訴内容を認めており、量刑が最大の焦点だった。弁護側は被告の不遇な生い立ちの影響を情状酌量するよう求めたが、ほとんど考慮されなかった。
結果の重大性を重く見た判決だと言える。
裁判では被告の悲惨な生い立ちが克明に語られた。
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に入信した被告の母親は総額1億円に上る多額の献金を行った。家庭は困窮し、被告の兄が自ら命を絶つなど、被告自身と家族の人生が翻弄(ほんろう)された。
その結果、教団への復讐(ふくしゅう)心を強め、教団幹部の襲撃を考えたが見通しが立たず、教団の友好団体にビデオメッセージを送っていた安倍氏の襲撃を決意したという。
高額献金により、被告の家庭が崩壊した経緯を考えると、教団の責任は重い。
裁判を通じて政治との関係や宗教2世の問題に十分光が当たらなかったのは残念だ。
事件後、自民党は所属国会議員約180人に教団との接点が確認されたとの調査結果を発表した。教団側から組織票の支援を受けるなどしたとされる。
ただ、票の差配を誰が、どう行ったかなど不明な点は多い。
裁判で被告の妹は、事件前に宗教2世の相談窓口は見つからなかったと証言した。
教団への高額献金を巡る問題は1990年代から話題になっていたにもかかわらず、具体的な手だてが取られなかった。事件が起きるまで被告一家が抱えていた問題を見過ごしてしまった社会にも責任の一端はある。
事件後、悪質な寄付の勧誘を規制し、取り消しを可能にする不当寄付勧誘防止法が成立した。
法整備はいまだ不十分だと訴える宗教2世もいる。当事者の声をくみとり、被害の救済につながる仕組みを整えていきたい。
