介護現場が疲弊している。新潟県内の新型コロナウイルス感染者は減少傾向だが、介護職員は感染防止を徹底し、緊張感を抱えながら業務に当たる。介護サービスを提供する事業所に支払う介護報酬は微増しているものの、職員の賃金水準は低い傾向が続き、慢性的な人手不足は解消されていない。衆院選を控え、関係者からは賃金引き上げにつながる、抜本的な制度の見直しを求める声が上がる。
約30人が入所する新潟市西区の特別養護老人ホーム「道場山穂波の里」。入所者は90歳代が中心で、重度の認知症の人や寝たきりの人もいる。
10人が一つのグループとなり、各グループを職員5人で担当する。夜勤を含め1日3交代。時間帯によっては、食事やトイレの介助を1人でこなす。
国が示す人員配置基準は入所者3人に対し介護職員ら1人で、この基準などをもとに、自治体から事業者に介護報酬が支払われる。配置基準は介護保険制度が2000年に始まってから変わっていない。
施設長の皆川直史さん(50)は「以前より要介護度の高い入所者が増えるなど現場の負担は増えているが、配置基準は長年変わらず、基本報酬が低く抑えられている。現場の実態に合っていない」と訴える。
同施設では経費節減などでやりくりし、職員を基準よりも多く配置している。ただ、職員を増やすと人件費が増えるため、多くの事業所がぎりぎりの人数で運営せざるを得ないという。
介護報酬は3年ごとに見直されている。本年度の報酬改定は全体で0・7%アップ。皆川さんは「プラスといっても、有資格者の人数などさまざまな加算分を取れないと報酬は増えない。基本報酬を底上げすれば給料も上がるので、制度を根本的に見直してほしい」と求める。
介護労働安定センター(東京)の20年度の「介護労働実態調査」によると、労働者の労働条件や仕事の負担に関する悩みは「人手が足りない」が52%、「仕事内容のわりに賃金が低い」が38・6%の順に高い。20年の賃金構造基本統計調査によると、介護職員の賃金は、一般労働者と比較すると月額で約7万円低い24万円ほど。国の推計では、25年度には介護職員が約32万人不足するとされる。
新潟市西蒲区の特別養護老人ホーム「白寿荘西」では、10月から常勤職員1人が欠員の状態になった。60人の入所者に対し、介護士や看護師ら約40人で支える。
家族が新型ウイルスの濃厚接触者となり、自宅待機を余儀なくされ、別の職員が休日返上でカバーするケースもあったという。施設長の田中順一さん(52)は「勤務がきつくなり、今頑張っている人たちの離職につながらないか心配」と打ち明ける。
衆院選ではほとんどの政党が介護職の所得向上を公約に掲げる。田中さんはその行方を注視し、「介護職を志す学生への経済的支援など、若者が介護の仕事に魅力を感じられるような政策を期待したい」と強調した。
◆介護保険料上昇続く
介護報酬の引き上げは、利用者の自己負担を増やし、介護保険料の上昇につながる。
高齢化が進み、介護サービスの利用者は増加。65歳以上が支払う保険料の全国平均は上昇を続けている。保険料は3年に1度改定。介護保険制度が始まった2000年度の月額2911円から上がり続け、本年度から3年間の保険料は前期比2・5%増の月額6014円だった=グラフ参照=。県内の平均は6302円となっている。
国の推計では、保険料は今後も増加が見込まれ、40年度には平均約9200円の見通しだ。
毎年度改定される40~64歳の保険料は開始時は1人当たり平均月2075円だったが、21年度は6678円になる推計で、過去最高を更新した。