【2021/10/08】

 依存症は、自尊心の低さや対人関係のストレスなど生きづらさを根本に抱えているケースが多い。生きづらさを感じている人たちのパフォーマンス集団「こわれ者の祭典」代表の月乃光司さん(56)=新潟市西区=は、対人恐怖症に苦しみ、引きこもり生活を送ったり、アルコールや処方薬の依存症で何度も死にかけたりした経験をもとに、メッセージを発信している。自身の体験とともに依存症の背景にある苦しみ、回復に必要な支援などを聞いた。

 15歳の頃に、「自分の唇は厚くて変だ」といった醜形恐怖症、対人恐怖症が顕著に出てきて、人からどう見られているか常におびえていました。学校では誰とも口を利かないので友達は全然いない。休み時間は図書館に行ったり寝たふりをしたりして過ごしました。

 関東の大学に進学しましたが、たくさん人がいて耐えられず、最初の3日ぐらい通うと、アパートに引きこもるようになりました。酒を飲み、孤独を紛らわせるしかありませんでした。19歳で精神科にかかり、向精神薬を飲むようになりました。

 いつも行き止まりという感覚がありました。死のうと思うのに、怖くてできない。取りあえず酒を飲んで先延ばしにしていました。心のよりどころだった当時の彼女に振られると、ますます酒浸りになり、向精神薬にも頼るようになりました。24歳でした。

 自殺未遂を繰り返し、精神科病棟に3回入院しました。人によって合う合わないはあると思いますが、入院中にアルコール依存症の自助グループにつながったことが大きい。退院すると週5回通いました。

 27歳から酒を飲んでいません。それぞれの回復過程にいる仲間と話す中で、今の自分を見つめ直しています。それが断酒を続ける動機付けになります。悩みがあれば自助グループで話す。酒などに頼らない解決手段です。以前は自殺願望がありましたが、メンタルをケアする場ができました。仲間との衝突もあったし、イベントのトップを務めて威張っていると指摘されたこともあります。でもそれが人間関係の訓練になりました。

 親が見捨てないで経済的に支えてくれたからこそ自助グループなどに行き、つながりを持ち続けられました。保護者のいない人や単身者でも、つながりを構築できるような地域の仕組みが必要です。依存症の背景にあるものを地域が理解し、どう治療につなげる仕組みをつくるか。安心して相談できる場所が重要です。

 イベントでは、多くの依存症当事者に会います。問題に直面して傷ついた人、女性なら家庭内暴力、性虐待の被害者が多い。依存症はギャンブルもアルコールも薬物も成り立ちは一緒。生きていくための手段として、現実の痛みを酒や薬物などの依存対象に置き換えている。何に依存するかは、手に入りやすい環境の差に過ぎません。自堕落、快楽主義ではありません。

 濃淡はありつつも生きづらさが全くない人はいないはずで、誰もが依存症に陥る可能性はある。自然災害やパートナーとの別れ、今ならウイルス禍で失業することも要因になり得ます。そして回復できる。特に偏見が強い薬物などに対して社会的なレッテルを貼るのは人間関係を築くのとは真逆の対応です。偏見を取り除いていくことも大切です。

 私は外に出る選択をして妻に出会い、子どもを持つ喜びを得ました。人と会う方を選ぶ癖をつけて場数を増やすと、症状が軽減されます。症状を憎んで人と会わない方が引きこもりにつながります。つながりの中で回復した自分を通し、発信し続けていくつもりです。

◎月乃光司(つきの・こうじ)1965年生まれ、新潟市西区在住。第5回安吾賞新潟市特別賞、新潟日報文化賞(社会活動部門)など受賞。厚生労働省のアルコール健康障害対策関係者会議委員。著書に「西原理恵子×月乃光司のおサケについてのまじめな話」(小学館)など。

=おわり=

(この連載は、報道部・五十嵐南美、高橋哲朗、本間美季子が担当しました)