【2021/10/07】
朝起きると、水分摂取にチューハイを飲んだ。食べては吐きを繰り返し、体が受け付けるのはお酒だけ。栄養失調で、体重は30キロになった。心配した姉に連れられ、摂食障害とアルコール依存症で入院。24歳だった。
幼い頃から、生きづらさを抱えていた。ひどくなったきっかけは、アルバイト先の上司からのレイプ。「尊厳、自分の価値が奪われた。自分は空っぽ。死んでもいい」
新潟市の中村うみさん=仮名=(36)は、自暴自棄になった当時を振り返る。2年間の入院生活の中で、つらかった思いを書き出したり、家族や自助グループで話し合ったりすることで、過去と徹底的に向き合った。
「過去は消せないけれど、全てを受け入れよう。自分を否定しながら生きる方がつらいから」
自身の経験を生かし、2018年に、知人とともに、同市のNPO法人「Colorful map(カラフルマップ)」を立ち上げた。副理事長として、依存症や引きこもりなど生きづらさを抱える若者たちを支援する活動に取り組む。
レイプされた苦しい過去も、打ち明けるようになった。「被害者も悪いのでは」といった誤解を受けたことがあり、当事者体験を伝える大切さを感じたからだ。
「どんな過去を抱えていても、生き生きと生きる権利がある。自由に生きていい、そう伝えたい」
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一般的な家庭だったが、満たされない思いを抱えて育った。優等生を振る舞うものの、自分に自信が持てず、他人の評価が気になる。中学生で隠れてたばこや酒に手を出した。優等生を演じる自分が苦しく、「悪いこと」をしてバランスを取った。
中学3年の受験勉強で、眠気を抑えるために食べ続け、気持ち悪くなり吐くことを覚えた。普通に食べるだけでは物足りなくなり、1日2、3回、過食や嘔吐(おうと)を繰り返すようになった。
「生きる意味が分からない。20歳までに夢を見つけられなかったら人生を終わらせよう」。高校に進学したが不登校に。通信制高校へ編入し、うつ病などを抱える友人と出会った。「みんな“普通”じゃない。キラキラしてないけれど、それでもいいよね」。自分のことを受け入れられるようになった。生きる方向を見いだし始めたとき、性暴力の被害に遭った。
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摂食障害とアルコール依存症で入院した2年間は「生き延びるために必要な時間だった」。入院中、多くの支えを身を持って知った。家族はどんな自分でも優しく受け止めてくれた。病院の仲間とは、同じ症状を共有して「一緒に生きていこう」と声を掛け合った。だからこそ今は言える。「一人で抱え込まないで人とつながると楽になるよ」
カラフルマップの活動では、新潟市の西堀ローサで月1回、依存症や貧困などをテーマに当事者と支援者が語り合うイベントを開く。問題を広く知ってもらうとともに、当事者が思いを語ることで人とつながり、活躍する場をつくることも目的の一つだ。
活動を通して「死にたい」と打ち明けられることもある。自分が「生き延びた」からこそ伝えたい。「自分を隠さず受け入れ、お互いを認め合う。そうなれば、社会はもっと優しくなるはず」
多様な人が自分の好きな色でそれぞれの人生の地図を描く-。色とりどりの「カラフルマップ」を描ける社会を願っている。