【2021/09/24】

 洋服を1着選び始めると、われを忘れて熱中し、気付けば10着目になっている。「しまった」と悔やむのは、購入ボタンをクリックした後だ。新潟市の40代、鈴木友美さん=仮名=は通販サイトの買い物にのめり込む時がある。

 何かと人に気を使う仕事で、買い物は一時のストレス解消。支払いはクレジットカードや電子マネーで「お金が湧いてくる感じ」がするが、請求書が届くと「払い切れるか」と冷や汗が出る。

 仕事がなく引きこもりに近い状態だった約15年前、ストレスがたまり、洋服だけでなくDVDなどを大量に買った。自分の分身(アバター)のファッションを楽しむゲームにもはまり、月3万円ほど課金した。

 貯金は消え、抱えた借金は最大で約130万円。借りた金で別の借金の利子を払う状況で、常にお金のことを考える毎日だった。失業保険などを充てても返せず、親に泣きついた。

 なぜ買い物に依存するのかは、よく分からない。振り返ると高校時代、男子にいじめられたが、おしゃれをすると一目置かれた。人よりおしゃれでいたい-。そんな願望が今もある。

 現在はカードや通帳を親に預け、使いすぎないようチェックしてもらう。以前ほどではないが、それでも通販サイトをのぞけば「欲求を抑えられないことがある」と明かす。

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 買い物は身近だが「依存に陥る人はいる」。当事者や家族を支援する公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表の田中紀子さん(56)は、そう語る。

 よくある衝動買いと何が違うのか。ポイントは「生活を脅かすほどかどうか」。食費や家賃など、生活のためのお金も使うようになれば「全く別物」だ。

 依存症の背景には生きづらさやストレスなどもあるとされるが、買い物も同様という。田中さんもギャンブル依存症の父や祖父を持ち、貧しい家庭に育った。大人になりギャンブル依存症になった後、ブランド品購入にのめり込んだ。「貧乏人の子というコンプレックスがあり、ブランド物で武装して自分を守ろうとしていた」と振り返る。

 相談の多くは家族からで、「妻が借金を繰り返す」との内容から依存が判明するケースもある。新型コロナウイルス禍で仕事が減り、暇つぶしに通販サイトの閲覧が習慣化する人がいるほか、大学生からは「リモート授業になってから買い物にはまった」との相談があるという。

 「本人や家族の苦しさは他の依存症と同じ」と田中さん。相談先として考える会や行政のほか、同じ「行為依存」の観点から、ギャンブル依存症の医療機関や自助グループを挙げる。

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 とはいえ、地方に支援の場は少ない。そもそも買い物依存自体が「認知されていない」(田中さん)と言われる中、家族も人知れず苦しんでいる。

 新潟日報社が8月に実施した依存症のアンケートには、「妻が買い物依存」という県内の60代男性から回答が寄せられた。妻はパート収入を全て買い物につぎ込み、足りなければ生活費も使う。買い物ができない時は機嫌が悪くなり、暴れることもあるという。

 子どもの進学など出費が必要な時でも「働いたお金を家に入れることは一切ありません」と男性。「買い物依存は恐ろしい」とつづり、「どうしたらいいのか30年以上悩んでいます」と明かした。

 田中さんは実体験を踏まえ、買い物依存も「回復できる」と語り、当事者や家族にこう呼び掛ける。「つらいと思ったら、『このくらいのことで』と思わずに相談してほしい」