31日に投開票が迫る衆院選は、長期にわたる新型コロナウイルス禍でダメージを受けた国内経済をいかに再生させるかが大きなテーマだ。感染の落ち着きで起死回生を狙う新潟県内企業だが、原材料や原油の高騰という新たな壁に直面している。世界的な需給の逼迫(ひっぱく)で金属や原油、食料品など影響はあらゆる業種に及び、企業側からは国を挙げての対応を求める声が上がっている。
◆製造業 需給バランス崩れ
大型トラックで次々と運び込まれる鉄製の塊や破片。電炉メーカーの北越メタル(長岡市)は、これら鉄スクラップを原料に、建設工事向けの棒鋼など自社製品のほぼ全てを生み出す。
鉄スクラップ仕入れ価格は、この1カ月ほどで1トン当たり2割弱も上昇した。購買部の高橋大輔部長は「ここまで急激に上がるとは思わなかった」と漏らす。
鉄スクラップは、工場で金属製品が作られたり、建物を解体したりする際に出る。ウイルス禍の収束を見据えて鋼材などの増産が始まりつつあるが、鉄スクラップの供給元となる製造業の稼働や解体工事ペースが追い付かず、需給バランスが崩れている。
鉄スクラップの高騰の背景には、感染がいち早く落ち着いた中国やベトナムの旺盛な需要もある。獲得競争は国内外で長期にわたり、今年4月と比べ現在は4割弱も跳ね上がった。高橋部長は「性能が落ちない範囲で少しでも安価なスクラップの調達に努めているが限界がある」と打ち明ける。
原料高騰のあおりで、同社は2022年3月期の業績予想を修正。経常利益は当初見込んだ5億5千万円から4億円へと引き下げを余儀なくされた。各国で建設や設備投資が盛んになれば、さらなる高騰の可能性もある。武仲康剛専務は「国内の産業振興のためにも、根底となる業種を支える姿勢を見せてほしい」と国に注文する。
◆飲食業 長期戦を警戒
価格高騰は、身近な食品の原料も例外ではない。代表例が小麦だ。国内流通の約9割を占める輸入小麦は、国からメーカーへの売り渡し価格が10月期(10月~22年3月)に19%引き上げられた。
県内外でラーメン店など約50店をチェーン展開する三宝(新潟市西区)。金子博信社長は「仕入れ額は半年で200万円以上増える」と予想する。来春以降も値上げの可能性があり、長期戦を警戒している。
ただ、簡単に販売価格には転嫁できない事情がある。「ラーメンは庶民の味方。ウイルス禍の中での値上げは客離れにつながりかねないし、やるとしても付加価値を付けないと理由が立たない」。金子社長は苦渋の表情を浮かべる。
外食は、ウイルス禍で深刻な影響を受けた産業でもある。金子社長は、あくまで感染対策は前提としつつ「所得を貯蓄に回している人もいる。消費喚起を含め中長期的な経済対策を打ち出してもらいたい」と切実な思いを語る。
◆運送業 運賃上乗せ難しく
世界的な経済の急回復は、原油価格の高騰も招いている。直撃を受けているのが、物流の要であるトラック運送業者だ。
燃料となる軽油は、前年同期比の上昇幅が1リットル当たり30円を超す。1千台弱の車両を持つ中越運送(新潟市中央区)の村山章常務は「燃料高騰のインパクトは非常に大きい」と率直に話す。上昇分を運賃に乗せれば利益は維持できるが、「同業他社との価格競争や、荷主からの難色などで簡単ではない」という。
業界は、ドライバーの人手不足や高齢化といった課題を抱えてきた。燃料費高騰で利益が削られると人件費に傾注しにくくなるため、収益性の向上は急務だ。
県トラック協会は、衆院選後に、業者を対象にした高速料金の引き下げなどを国や国会議員らに要望することを検討している。利益の確保に加え、効率的な配送による長時間労働の解消が目的だという。
同協会の会長でもある中越運送の小林和男会長は「運送業は国の動脈で、経済への影響は大きい。国のバックアップが必要だ」と強調する。