日常生活を脅かす新型コロナウイルス禍。国は生活に困っている人たちの命綱として、お金の無利子貸し付けなどを拡充した。31日投開票の衆院選でも、困窮者対象の給付金を公約に掲げる政党が目立つ。しかしその対象は明確でなく、公的支援の多くは原則、世帯の収入が基準。家族の形が多様化する中、制度のはざまで苦しんでいる人がいる。「私は本当にもらえるのか」「自分は支援の対象外ではないか」。複雑な思いを抱えながら選挙戦の行方を見詰める。

 「全部が全部、幸せな家庭ではない。一つ一つの命に支援をほしい」。新潟県下越地方の40代男性はこぼす。

 男性は感染が拡大する前から生活が苦しい状態だった。数年前にうつ病で離職、体調を崩しがちの妻は正社員からパート勤務に切り替えた。当初は男性の退職金を切り崩してしのいだが、それも行き詰まった。

 社会福祉協議会には困窮者向けの生活福祉資金貸付制度がある。しかし、男性は支援者から「受給対象にならない」と告げられた。同居している両親の年金収入があり、世帯全体の収入が基準を超えるためだ。

 男性は自分と妻の病気を巡って両親と対立。生活費のほとんどを別にして暮らす。働くことが厳しいため別居には踏み切れない。カードローンがあり、貸し付けを申請しても承認されるか不透明だが「家族だけではなく個人の状況も見てほしい」との思いは募る。

 生活困窮者の相談に応じる県パーソナル・サポート・センター(新潟市中央区)の小田恵センター長は世帯の収入が受給の壁になり「制度のはざま」に置かれる例は多いという。「家計を家長が振り分けていた古い時代の考えが基にある。一緒に暮らしていても『財布』は別という3世代同居や核家族が増え、家庭の事情もさまざま。制度が生活の実態に合ってない」と指摘する。

 新潟市の40代女性は昨年、夫のドメスティックバイオレンス(DV)に耐えかね、県外から2人の子どもと実家に避難した。

 就学援助の受給を目指したが、市の資料などから、同居家族を含めた世帯の所得が基準より高いと判断して申請しなかった。今年に入り、専門家のアドバイスを受け、親と生計が別であることを示す書類を提出。DV被害も申告し、就学援助につながった。

 ただ、所得の低いケースが多いひとり親家庭に支給される児童扶養手当には該当しない。DVが「身体的暴力」ではなく「精神的・経済的」なものだったため、受給要件である裁判所の「保護命令」が出ない。ウイルス禍に伴うひとり親対象の給付金も受けられなかった。

 女性は「ウイルス困窮支援やひとり親支援という文字を見るのがつらい。私は影響は受けてないし、離婚もしていないから」と語る。福祉の在り方にも疑問を感じながらこう言う。「複雑な制度や煩雑な手続きは市民には理解できない。水面下で困っている人に支援が届いていない」

◆進む個人主義「世帯単位では排除生む」
新潟大・中村准教授

 新潟市役所で生活保護行政に長く携わり、公的扶助に詳しい新潟大の中村健准教授は「個人主義が進む中で、どうして福祉制度だけ世帯単位が続いているのか考えなくてはならない」と話す。

 昭和の高度経済成長期は男性が稼ぎの中心で、女性が育児や介護を担い、雇用する企業も福利厚生で福祉的ニーズを担った。そこから漏れる人を補完する社会保障の発展が「日本型福祉」だとする。

 だが、バブル崩壊後、産業や雇用形態が変わり、家族構成も変わってきた。一方で男女の賃金格差は埋まらない。大黒柱が病気やけが、DVなどで役割が果たせず家族の機能がゆがんだ時に「『世帯単位』を貫き通すと排除が生まれる」と指摘する。

 世帯の人間関係が崩れた困窮者の救済に課題を感じる支援者は多いという。「生活保護では厚労省が窓口職員の意見を吸い上げ、制度見直しに反映してくれる。制度をつくるのは政治だが、おかしいと感じたら議員も職員も国に声を上げるべきだ」と話している。