いかなる理由があったとしても無差別に他人を傷付ける非道が許されるわけがない。相次ぐ凶行の背景には、孤独や孤立も指摘される。関係機関は再発防止へ対策を急がねばならない。
東京都文京区の東大前の歩道で、高校2年の少年が、大学入学共通テストで訪れた高3の男女と72歳男性を刃物で襲った事件から1週間が過ぎた。
少年は「勉強がうまくいかず事件を起こして死のうと思った。医者になるため東大を目指して勉強していたが、成績が振るわず自信をなくした」と供述しているという。
人を殺して罪悪感を背負って切腹しようと考えたとも話している。自分勝手な言い分に言葉を失う。
事件は、ウイルス禍の影響で授業や一部の行事がオンライン形式に変更され、孤立感にさいなまれて自分しか見えていない状況の中で引き起こされた。少年の学校はこう推測した。
捜査当局には、動機や背景の解明をさらに進めてほしい。
学校や教育関係者は、現場にいた生徒や受験生の心のケアも欠かさないでもらいたい。
このところ無差別に他人に危害を加える事件が後を絶たない。昨年12月には、大阪・北新地の繁華街の雑居ビル4階にある心療内科クリニックから出火し、25人が犠牲になった。
大阪府警はクリニックの患者で、火災で死亡した61歳の男がガソリンをまいて火を付けたとみて、殺人と現住建造物等放火の容疑で年度内にも書類送検する方針だ。
男は生活が困窮し、交友関係も乏しかったとみられる。
「史上最悪の凶悪事件」を調べたり、36人が犠牲になった京都アニメーションの事件などを検索したりしていた。
計画的に手口を模倣した疑いがあり、府警は大勢を巻き込む「拡大自殺」を企てたとみて調べている。
あまりの理不尽さに改めて強い憤りを覚える。
昨年は、東京の京王線車内で20代の男が放火し乗客を刺傷したり、熊本県を走行中の九州新幹線の車内で60代男が火を付けたりした事件も発生した。
熊本の事件で逮捕された男は「京王線の事件をまねした」と話し、模倣をうかがわせる。
共通するのは「死刑になりたかった」「誰でもよかった」などと死を望み、他人を巻き込む身勝手さだ。
困窮や孤立から自暴自棄に陥っていたと指摘されていることも見逃せない。
政府は昨年末、孤独・孤立問題に対応するために初めての重点計画を決定した。
計画では、当事者個人の問題ではなく、社会全体で対応しなければならないと強調、相談体制充実や実態把握を掲げた。
不安や孤独を抱えた人を見守るためには、関係機関が緊密に連携していくことが欠かせない。交流や居場所づくりなど地域で協力できることもある。
悲劇が繰り返されぬよう着実に対策を講じたい。