違法との判断を受けてもなお、困窮する人々に冷淡であるのはなぜか。国は過ちを繰り返すことなく、誠実に補償問題と向き合うべきである。
政府は、2013~15年の生活保護費の引き下げを違法とした最高裁判決を巡り、補償は当時の減額分の全額でなく、一部にとどめる方針を決定した。
当時の経済状況を踏まえ、違法とされなかった手法などで全受給者分を対象に改めて引き下げた上で、13年からの減額分との差額を支払うことにする。
6月の最高裁判決は、物価下落率4・78%を指標とした「デフレ調整」は専門家の審議を経ておらず違法と断じ、減額処分を取り消した。一方、受給者間の均衡を図る「ゆがみ調整」は違法とは認定しなかった。
このため、厚生労働省は「引き下げ自体は否定されていない」との解釈に立つ。ゆがみ調整を再び実施し、さらに、違法とされたデフレ調整の代わりに、当時の一般低所得世帯の消費水準に合わせ2・49%の引き下げも適用する。
4・78%の引き下げよりは小幅となり、差額が一部補償となる。
しかし、引き下げにこだわるべきではない。最高裁が取り消した減額処分を再び行うことは、生活保護受給者の困窮と向き合っているとはいえない。
判決を受け厚労省が設けた専門委員会でも、3人の法学者が原告への引き下げやり直しに反対の意向を表明していた。
方針に対して原告側が発表した「人権と人間の尊厳を踏みにじる仕打ちであり、断じて容認できない」との声明を国はしっかり受け止めるべきだ。
補償対象は原告約700人、原告以外では現在受給していない世帯を含め約300万世帯になると見込まれる。
政府方針では、原告には長期の訴訟負担などに配慮して特別給付金を上乗せ支給する。
1世帯当たりの支給額について厚労省は、原告がおおむね20万円、原告以外がおおむね10万円との試算を示す。
訴訟への参加の有無で支給額に差が生じる。原告と原告以外を区別することには疑問がある。
専門委では、長期にわたり訴訟を続けてきた原告がより多く救済されるべきだという意見もあったが、生活保護の「無差別平等の原理」から差を設けるのはおかしいとの指摘もあった。
厚労省は専門家の知見を無視した過ちから学ぶべきである。
実際の支給には難しさがある。生活保護を現在受けていない人の場合、事務を担う自治体が当時のデータをたぐる必要がある。膨大な作業が予想される。国が人員確保などを支えるべきである。
10年以上続く不利益に対し、国の誠意ある対応が不可欠だ。
