各地で病院の経営が揺らげば、国民の健やかな暮らしも危うくなる。負担の在り方も含めた議論を急ぎ、医療拠点を維持しなければならない。
厚生労働省の2024年度の医療経済実態調査によると、一般病院の1施設当たりの利益率は7・3%の赤字となった。前年度比では0・2ポイント改善したものの、一般病院の7割以上が赤字経営という厳しい状況が続く。
経営主体別でも利益率はいずれも赤字で、自治体による公立が18・5%と最も悪かった。国立は5・4%、医療法人が運営する民間は1・0%だった。
物価高や人件費の上昇が赤字の主な要因となっており、改善は容易ではない。ベッド数が19床以下の診療所では黒字を維持したものの、利益率は縮んだ。
高市早苗首相は、地域診療体制などの維持へ25年度補正予算案での応急的な手当を指示した。現場の実情に応じた支援を求めたい。
病院の経営悪化の影響は患者に及ぶ。公立、民間病院では一部診療科の撤退や閉鎖といった、住民が身近な通院先に困る事態が既に県内外で起きている。
帝国データバンクの調べでは、24年に倒産した医療機関は、歯科医院も含めて64件と過去最多に上った。医薬品や医療機器の価格高騰などコスト増大が要因で、対策が急務となっている。
病院側は経営改善に動き出している。県内で11病院を運営するJA県厚生連もその一例だ。
県厚生連は23、24年度とも30億円を超す赤字となり、一時は債務超過に陥る恐れもあった。休診日を減らす、職員賞与をカットするといった収支改革で赤字幅の圧縮に取り組んできた。
ただ、人件費削減も影響し、24年度の自己都合退職者は前年度比84人増の465人となった。職員が「現場の努力だけでは立ちゆかない」と県に支援を求めたのも当然だろう。
同様の改革は他の医療機関でもみられるが、職員の犠牲の上に成り立つ経営では、継続が危ぶまれる。特に、大都市への医療人材の流出が懸念される本県では、経営の安定と並行して労働環境の充実を図る必要がある。
改革をさらに進めようとすれば、医療機関の収入に当たる診療報酬の議論が欠かせない。今回の調査結果は診療報酬の26年度改定の基礎資料となり、25年度末の改定率決定へ議論が本格化する。
診療報酬を引き上げれば、医療機関には赤字の改善や職員の待遇見直しの追い風となるが、患者の窓口負担や保険料は重くなる。現役世代の負担抑制を掲げる高市政権にとって、難しい課題だ。
それでも診療体制を崩すわけにはいかない。政府はできるだけ多くの国民の納得が得られるよう、慎重に議論してほしい。
