優先すべきは女性の不利益の解消である。高市早苗首相は、保守派としての持論や連立政権の2党合意にとらわれることなく、別姓という選択肢を求める声に耳を傾けねばならない。

 政府、与党は旧姓の通称使用を法制化するための関連法案を来年の通常国会に提出する方向で検討に入った。

 夫婦同姓となる「同一戸籍同一氏」の原則は維持する。その上で旧姓に法的効力を与え、結婚に伴って改姓した人の不便を解消することを目指す。

 高市首相は長年、旧姓の通称使用を持論としてきた。首相就任前の今年2月には、自民党保守派の会合で、旧姓の通称使用を拡大する独自の法案を提示した。

 自民と日本維新の会が10月に交わした連立政権合意書でも、旧姓の通称使用の法制化法案を来年の通常国会に提出し、成立を目指すと明記していた。

 この場合、夫または妻が親しんだ戸籍上の姓を変えねばならない点で現行制度と変わりはない。

 個人のアイデンティティー喪失につながる懸念は残ったままだ。

 厚生労働省の統計では、2024年に婚姻した夫婦のうち、夫の姓を名乗る割合は94%だった。

 改姓に伴う社会生活上の不利益を女性が負っている現実を直視する必要がある。

 運転免許証やパスポートは旧姓を併記できるようになったが、銀行の3割は、資金洗浄の懸念があるなどの理由で旧姓での口座開設や維持を認めていない。

 旧姓に法的効力が与えられればこうした不便の解消が期待されるが、通称は海外では理解されづらく、不正を疑われたりトラブルになったりするリスクは消えない。

 希望すれば生まれ持った姓を戸籍上の姓として名乗り続けられる選択的夫婦別姓制度を早期に実現させるべきだ。

 経団連や経済同友会、日弁連も選択的夫婦別姓の導入を要望する。姓名は築いてきた信用の土台であり、改姓は働く女性のキャリアにとって不利益となってきたからだ。ジェンダー格差の解消に向け、尊重すべき要望である。

 先の通常国会では28年ぶりに別姓法案が審議入りしたが、採決には至らなかった。

 別姓法案をそれぞれ提出した立憲民主党と国民民主党は、子の姓の決め方などで立場が異なる。自民は、党としての意見を集約できなかった。

 自維は連立の思惑を離れ、誰もが活躍できる社会の在り方を探ってもらいたい。

 高市内閣の発足後に共同通信社が実施した世論調査で、女性首相誕生が女性活躍の後押しになると歓迎したのは、「どちらかといえば」を合わせ76・5%に上った。

 変化への期待を首相はしっかり受け止めるべきである。