文化審議会がその価値を認めたのだから、推薦の決定は当然だ。気掛かりなのは政治問題化したことだ。手続きが円滑に進み、確実に世界遺産に登録されることを望む。

 岸田文雄首相は28日、「佐渡島(さど)の金山」の世界文化遺産登録を国連教育科学文化機関(ユネスコ)に推薦すると表明した。2023年の登録を目指す。

 歴史問題を理由に韓国が反発し、現状では世界遺産の登録が見込めないとして一時21年度の見送りが検討されたが、推薦書提出期限の2月1日を目前に控えた中で、方針を転換した。

 岸田首相は「本年申請し、早期に議論を始めることが登録実現への近道という結論に至った」と説明した。

 韓国が問題視するのは、佐渡金山は戦時中に朝鮮半島出身者が強制労働させられた被害の現場だったということだ。

 強制労働を巡る韓国側の心情は理解できるが、推薦された佐渡金山の対象時期は江戸時代までだ。当時は手作業で採取から精錬まで行われ、こうした遺跡が残っているのは世界的にも価値があるとされる。

 花角英世知事が「(戦時中の問題は)世界遺産の話とは違う議論だ」と訴えたのはうなずける。歴史認識と切り離して文化的価値の観点から是非を議論するのが筋だろう。

 それだけに政府の迷走ぶりは残念だった。

 文化審が金山を国内推薦候補に選定し、政府に答申したのは昨年末だった。ところが文化庁は「文化審の候補選定は推薦決定ではない」とし、「今後、政府内で総合的な検討を行っていく」と異例の文言を付けた。

 政府は「総合的な検討」の内容を明らかにせず、推薦を見送る方向に傾いた。

 背景には、韓国が反発する中で強行すれば、最悪の場合、登録の道が完全に閉ざされかねないとの懸念があったという。

 これに対し、安倍晋三元首相や高市早苗政調会長ら自民党保守系議員は「日本の名誉に関わる問題だ」などと反発し、推薦すべきだとの主張を強めた。

 政府が方針を一転させた背景には、保守派議員の突き上げがあったとされる。夏の参院選を控え、見送りなら自民党を支持する保守層が離れると主張した議員もいた。

 政治的主張が行き過ぎ、佐渡金山の価値やイメージをゆがませることを懸念する。

 韓国側が非難する中で、登録への先行きは不透明と指摘される。ユネスコから2国間協議を促され、審査を棚上げされる可能性もあるというのだ。

 佐渡金山の世界遺産登録に向けて、島民ら関係者は長年の努力を積み上げてここまで来た。

 金山が日韓関係の新たなとげになることは決して望んではいないはずだ。

 岸田首相は韓国に対し「冷静で丁寧な議論、対話をしていきたい」と述べた。政府は島民、県民の思いをしっかり受け止め、登録につながるよう力を尽くしてもらいたい。