将棋のトップ棋士がぶつかり合うタイトル戦。新潟市で指される第49期棋王戦第3局でも、華やかな舞台にふさわしく、最高級の「盛り上げ駒」を用いる。棋士は一手を指すのに1時間超をかけることもあり、膨大な局面が脳内で交錯する。その中からたった一つのルートを選び、示すのが盤上。今対局、その盤上で躍動する駒となるのが、新潟県三条市の駒師、大竹日出男さん(80)が手がけたものだ。
「地元のタイトル戦に自分の駒が使われる、こんな名誉なことはない」。3月2日夜、藤井聡太棋王=八冠=と伊藤匠七段がぶつかる第49期棋王戦第3局の舞台、新潟グランドホテル(新潟市)で取材に応じた大竹さんは、感慨深げに語った。
三条市を拠点に60年近くにわたり、将棋の駒を作ってきた。号にちなみ、「竹風駒」と呼ばれる。竜王戦をはじめ、いろいろなタイトル戦で使われてきた。藤井棋王も所有し、愛着を持っている。
大竹さんにとって今年は数えで「盤寿」(81歳)に当たる。将棋盤が「9ます×9ます」で81ますあることにちなんだ、将棋界らしいお祝いの歳だ。

第49期棋王戦第3局で使用される駒
「節目の祝いの年に、若い藤井さん、伊藤さんの対局に私の駒が使われる。縁のある気持ちがします。どっちに勝ってほしいとかではなく、死力を尽くしてもらえたらありがたい」
年を重ね、少し指が曲がりづらくなるなど、老いを感じている。「ゆっくり、ゆっくり。それは仕方ない」
それでも、いい駒を作りたいという思いは衰えない。毎朝、仏壇と神棚に上げる水を替えるとき、「もう少し、駒を作らせてください」と願う。
大竹さんが丹精を込めた駒を使い、将棋界の未来を背負う若き両雄が新潟でぶつかる。