
映画「国宝」は、歌舞伎の名門の家に引き取られた主人公の喜久雄が、御曹司の俊介と共に芸を高め合う50年を描く。李相日監督=新潟市出身=は「才能か血筋かという愛憎劇と、何かを極めようとする清廉さが混在する作品になった」と手応えを語る。
歌舞伎をテーマにすることに元々意欲があり、原作となった吉田修一の同名小説を受けて映画化を構想。当初から譲れなかったのは、吉沢亮を主演にすること。「演じている自分を客観視するような独特の雰囲気が、喜久雄と重なって見えた」

俊介役は横浜流星。2人はスター街道を歩むが、それぞれの事情で道を踏み外す。活躍していく姿を「二人道成寺」の華麗な舞踊で表すなど、喜久雄らの人生を名演目の象徴的なシーンと重ねる形で描写。舞台の撮影では、観客目線で俯瞰(ふかん)し、俳優に迫って躍動感を見せ、表情に寄って内面を表現するという「三つのレイヤー」で引き込む。

吉沢の演技にすごみが増す転機に、喜久雄が「曽根崎心中」の大役お初を演じることになり、初舞台前に緊張を隠せなくなる場面の撮影を挙げる。一般的に「主役がキャラクターをつかむのには時間がかかる」。吉沢も1週間ほど模索した末、「役の輪郭」を見事に浮かび上がらせた。

吉沢と横浜は1年がかりで所作や発声を習得した。李監督は2人が歌舞伎の名優役に「真実味」を持たせた上で切ない心情表現も見せたことに感謝。喜久雄や俊介と同様、道を突き詰めようとする俳優たちに敬意を尽くす。「表現を研ぎ澄ませていく過程で『普通の楽しみ』を手放すこともある。壮絶さを感じます」
喜久雄を引き取り、俊介の父親でもある歌舞伎名門の当主・花井半二郎役を渡辺謙=魚沼市出身=が演じている。
◆吉沢亮さんインタビュー「役者人生の集大成」

主演映画「国宝」は、役者人生の「集大成」だと語る。「吉沢亮といえば...
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