エチオピア・デラシャ地方の人々※このページに掲載されている現地の写真は2025年2月に撮影、砂野唯さん提供

 なんでこんなに二日酔いはつらいのか、どんなにお酒を飲んでも酔わない体があればいいのに……深酒をした翌日、自己嫌悪と共に叶わぬ夢を思い浮かべることがある。しかし世界は広かった!アフリカ大陸のエチオピアに一日中お酒だけを飲み続けているのに酔っ払うことなく、健康に生活を送っている人々がいるという。現地調査を20年近く続けているのが、新潟大学助教の砂野唯さん。「酒を主食とする人々」の驚くべき生活ぶりを聞いた。

新潟大学の砂野唯助教
 すなの・ゆい 1984年京都市生まれ。在来農業のフィールドワークなどを中心に、京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科で博士課程を修了。名古屋大学大学院特任助教などを経て、2022年から新潟大学人文社会科学系創生学部の助教を務める。2008年から断続的にエチオピアなどでの現地調査を続けている。2025年1月に発行されたノンフィクション作家高野秀行さんの新著『酒を主食とする人々』(本の雑誌社)の監修役を務めた。同書は既に3刷を重ねるベストセラーとなり、第24回新潮ドキュメント賞の候補作品にノミネートされた。
写真左は砂野さんが監修役を務めた高野秀行さん著「酒を主食とする人々」(本の雑誌社)、右は砂野さんの著書「酒を食べる エチオピア・デラシャを事例として」(昭和堂)

◆悪霊が取り憑いた⁉ 

 京都大学の大学院生だった砂野さんは、アフリカ大陸の在来農業を調査するためエチオピア・デラシャ地域のとある村(来訪者の増加による文化破壊や環境破壊を防ぐため村の名前は非公表)を訪れた。柵と石垣で囲まれ、わらぶき屋根の家が立ち並ぶ集落に足を踏み入れた砂野さんは、そこで驚くべき光景を目の当たりにした…。
砂野唯さんが調査に訪れた村

――最初に村を訪れた時の印象はいかがでしたか

【砂野さん】
「えっ、大丈夫なの!?」と思いましたね。各家庭で「パルショータ」と呼ばれるモロコシやトウモロコシ、エチオピア・ケールなどの粉末に水を加えて乳酸発酵させたお酒を作っていて、アルコール度数は3~4%。これを大人も子どももひょうたんとかペットボトルに入れて持ち歩き、毎日5キロぐらい飲んでいるんです。少量ですが2歳ぐらいの乳幼児も水で薄めたパルショータを飲み始めていました。

村人たちと砂野唯さん

パルショータ以外に穀物のお団子とかもあるんですが、みんな少量しか食べない。村の人に「日本では(過度の)アルコールは体に悪いって言うんだけど…」と聞いてみると、「いや、これお酒じゃないから、ご飯だ」「みんな長生きで元気だよ!」って。

――村の生活にどう溶け込んだのですか?

【砂野さん】
フィールドワーカーは現地の人たちと同じように生活しなければいけないという教えもあって、パルショータを頑張って飲み続けました。

パルショータを飲む砂野さん

それでもなかなか口に合わなくて飲めなくて毎日が空腹との闘いでした。おなかが減って夜中に目が覚めることが続いて、滞在数日で体調がおかしくなりました。

悪酔いしたような頭痛がずーっと続いて食欲がない。固形物を食べないと口が半開きになるんですね。常にあごが下がっている状態で。何か物がかみたくて、木の枝をかんでいました。

 滞在開始から2週間がたち、体調は日を追うごとに悪化していった。肌は荒れ、全身はかゆくなり、貧血やめまいなどに苦しむようになったという。

【砂野さん】
小屋の中で寝てたんですけど、みんながお見舞いに来るんですよ。パルショータ持って(笑)小さい家の中にみんな集まって、パルショータ飲んでおしゃべりして、うるさくてとても寝られない。それが何日も続いて、もうプッチンと切れてしまって、外に出て木を揺すりながら「頼むから一人にさせてくれっ!!」って叫んだんです。

そうしたら...

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