
「ここは東京のど真ん中」とか「東京行けば何とかなるさ」とかいう歌の文句があった。ボクが上京したころは、流行歌でも何でも、東京、東京っていう時代だったんだ。
オヤジの知り合いから紹介された勤め先は、江戸川区小松川の「エビス工業」という小さな化学薬品工場でね。硫酸鉄とかをつくっていたんだ。
これがまた重労働。朝6時に始まって、木のおけに希硫酸と鉄を入れて煮るんだ。おけの内側にできた青い結晶をそぎ落とすんだけど、力仕事でね。その上、60キロ詰めにした結晶の袋を、1人2百袋ぐらいトラックに運ぶんだ。仕事が終わるのは夜8時だよ。
工場の横の寮で、午前3時ぐらいまでマンガをかくんだけ...
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