
岩手県遠野市の菅原神社で、宮大工に作ってもらったしし頭を持つ富川岳。「分身のような感じがして、とても思い入れがあります」。神社の例大祭で、張山保存会がしし踊りを披露している=2025年9月(撮影・林昌三)
日の暮れた山里に太鼓の音が鳴り出すと、世間話をしていた人たちがおもむろに列をなし、踊り始めた。2018年の夏。岩手県遠野市に移住し3年目を迎えていた富川岳(とみかわ・がく)(38)は、郷土芸能のしし踊りの練習風景を目の当たりにした。
小さな公民館の敷地のぽつんとした明かりの中、音と共に踊りの世界に入っていく男女に見とれた。そのつもりはなかったのに、程なくして自分もそのうちの一人になった。毎年5月ごろに踊り始め、秋まで断続的に催される祭りが本番だ。
しし頭をかぶり、息苦しさの中、反復する太鼓と笛の旋律にあおられるようにステップを踏む。息が荒くなり、自分の中にある野性的なものが表出し、解放される...
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