
パレスチナの村で受け継がれてきた伝統衣装や装飾品が並ぶティラーズの館内。「刺しゅうは、自分たちを表現する言語」とディレクターのサルアは語る=2025年8月ヨルダン(撮影・坂野一郎、共同)
陽光に照らされながら、柔らかな白いドレスの布地に深いワインレッドの糸が幾何学模様を描いていく。「三角形を組み合わせた柄は、生命の象徴イトスギの木がモチーフ。母から教わった家族の模様なの」。ヨルダンの首都アンマンにある博物館の一室で、パレスチナ刺しゅう職人アディラ・サバ(55)は、窓際の床に腰を下ろして静かに語った。
刺しゅうは村ごとに模様や色彩が異なり、母から娘へと代々受け継がれてきた。何世紀にもわたって大切に紡がれてきた、パレスチナ人のアイデンティティーだ。
▽村の暮らし
石造りの家が斜面にひしめき合う旧市街近くの一角に、アディラの自宅と作業場はある。一帯にはパレスチナ難民が数多く住んでい...
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