
藤原辰史さん
タガが外れる、という言葉を最近聞かなくなった。竹や金属を使って輪にした「箍」のことだ。複数の板を円形や長円形に並べ、外側から締め付けると桶や樽になる。
桶や樽があまり使われなくなったので、何かの力でタガが緩んだり取れたりしたとき、そこから水が一気にあふれ出るイメージが湧きにくい。だが、突然制御が利かなくなることを示すこの縁起の悪い言葉は、いまの時代の雰囲気を表現するのにぴったりだ。
なぜなら、世界中でタガがつぎつぎに外れる音がするからである。洪水で堰が切れる音と言ってもよい。歴史を学ぶ目標の一つはおそらく、こうした破裂音と流出音を耳で探る方法を身につけることだと考える。
そもそも人間社会にお...
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