イラスト・髙木杏珠(デジタル報道センター)

 カッとなって誰かに怒って後悔した経験はないだろうか。喜怒哀楽というくらい、人の根本的な感情なのに、トラブルの種になりやすいのが「怒り」だ。ハラスメントや交流サイト(SNS)での誹謗中傷が社会的な問題となる中、怒りをコントロールするための心理トレーニング「アンガーマネジメント」への注目が高まっている。怒りと上手に付き合えれば、周囲との人間関係だけではなく、自分の人生も豊かになる。自戒を込めて、その世界をのぞいてみた。

 (報道部・樋口耕勇)

「こうあるべき」という価値観を認識→違いを許容し…

1970年代に米国で誕生、日本でも協会設立

 例えば、出社時間が他の人よりも遅い新入社員がいる。ある先輩はそれを見て「自分の時は一番に来ていたのに。新人は早く出社するべきだ」と腹を立てた。一方、別の先輩は「始業に間に合っているし、問題ない」と意に介さない。同じ出来事でも怒る人と怒らない人がいる。怒るのは、自分の価値観との違いを受け入れられないからだ。

 アンガーマネジメントとは、こうした「〜であるべき」という固有の価値観を認識し、違いを許容することで不要な怒りをなくそうとする方法論だ。人の自然な感情である怒り自体は否定しない。思いを伝えたい時は攻撃的にならず、「早く出社すれば、こういうことがためになる、こういう役割があるよ」などと具体的に告げることが大切だ。

 1970年代に米国で誕生したとされる。当初はドメスティックバイオレンス(DV)や差別、軽犯罪の加害者に対する矯正プログラムとして確立され、企業や教育の分野に広まった。テニスの世界的名手だったロジャー・フェデラーさんが取り入れ、好成績につなげたことでも知られる。

 日本では、2011年に日本アンガーマネジメント協会が発足。「怒りの連鎖を断ち切ろう」を理念に、企業などへの研修や指導者の育成に力を入れてきた。近年パワハラやカスハラ対策の法整備が進み、注目が高まっている。24年に開いた研修は約4千回で、10年前の2・6倍に。これまで輩出した指導者は計約5千人という。

 アンガーマネジメント協会は「精神論ではなく、トレーニングすれば、誰でも習得できる技術だ」と強調する。では、具体的にどうしたらいいのだろうか。...

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