大川博賞受賞を記念して講演する岩井澤健治=2月、新潟市中央区

 2月25日、第4回新潟国際アニメーション映画祭のフィナーレを飾る表彰式。6日間の会期を満喫した高揚感に包まれる中、国内外から集まったクリエーターやアニメファンらが壇上を注目していた。

 優秀な制作スタジオに贈られる、新潟市西蒲区出身で東映動画を創設した人物の名から付けた「大川博賞」。受賞したのはスタジオ「ロックンロール・マウンテン」だ。代表取締役で今話題のアニメ映画「ひゃくえむ。」監督の岩井澤健治(45)が、トロフィーを受け取り、あいさつした。「スタジオになって2年半。もう一度この賞をいただけるよう頑張ります」

 岩井澤が新潟の映画祭に来るのは3年連続3度目だ。過去2回は上映兼トークショーの企画に呼ばれた。

「ひゃくえむ。」(C)魚豊・講談社/『ひゃくえむ。』製作委員会

 それが、今回はこれまでと違う形で、しかも、より脚光を浴びる立場で新潟を訪れた。さまざまな映画祭に呼ばれる岩井澤だが、「新潟とは縁を感じる。これからも協力できることがあれば協力したい」と話す。

 岩井澤は若い頃、実写映画を自主制作していたが、完成させられず挫折を味わうこともあった。同世代の才能を目の当たりにし、「勝負できない」と思った。

映画祭会場の一つの古町地区に立つ岩井澤健治=2月、新潟市中央区

 映画とは関係のない会社に就職するも、監督になる夢は捨てられなかった。葛藤する中、心に浮かんだのは、絵を描くことが好きで、漫画家が夢だった幼少期の記憶。「アニメは実写よりライバルが少ない。働きながらでも一人で作れる」とアニメに転向した。

 2008年、デビュー作の短編が複数の映画祭で賞を獲得。「アニメでやっていける、続けていいんだって背中を押してもらえた」

新潟国際アニメーション映画祭の会場近くに立つ岩井澤健治。「新潟映画祭は3回目。縁を感じている」=2月、新潟市中央区古町地区

 その後、長編にも挑戦し、7年半かけて4万枚超を手描きした映画「音楽」を20年に発表。オタワ国際アニメーション映画祭(カナダ)でグランプリを獲得するなど高評価を受けた。映画祭とは何か-。岩井澤は言う。「自分に自信を与えてくれる場所」と。

【ひゃくえむ。】陸上競技100メートル走に全てを懸けた男たちの情熱と狂気を描いた物語。実写をなぞる「ロトスコープ」の臨場感のほか、声優に俳優の松坂桃李、染谷将太らを起用し、話題を集めた。世界最大規模のアヌシー国際アニメーション映画祭(フランス)で2025年6月に初披露した後、国内では9月からロングラン上映が続いている。県内のシネマコンプレックスでも上映された。日本アカデミー賞優秀アニメーション作品賞。原作は魚豊の同名漫画。

◆「成長し、また帰ってくる」濃密な交流、若手の刺激に

LOCA!監督・うったまーの思い

アニメーションを学ぶ学生らの質問に答えるうったまー(中央)=2月、新潟市中央区

 「これ見てください」。第4回新潟国際アニメーション映画祭が閉幕した夜の打ち上げ会場。コンペティションに参加した監督・うったまー(23)は憧れの映画監督・岩井澤健治(45)の隣に陣取り、自身の作品を見せた。夜更けまで酒を酌み交わしながら、セル画と背景の描き方の違いなどアニメについて語り合った。

 若手に教える立場になったと自覚する岩井澤。自身の経験を伝えていきたいと思う一方で、年下の監督と話すことは自分にとっても次作へのモチベーションになると言う。「出会いは映画祭の醍醐味(だいごみ)」と喜ぶ。

 うったまーは「他の映画祭では授賞式で少し話す程度で、他の監督とこれだけ密度が濃い交流があるのは、新潟ぐらい」と興奮気味に話す。だからこそ実感する。「新潟での出会いが自分を成長させてくれる」

 うったまーは東京学芸大で美術を学ぶ4年生。アニメを始めたのは2年生の頃で、自主制作のアニメーターが交流サイト(SNS)で発信していた時期だった。その潮流に乗り、うったまーもミュージックビデオのアニメ制作を手がけるようになった。

「LOCA!」(C)スタジオ3号車/2025

 コンペに出品したのは、うったまーの初監督作品「LOCA!」(ロカ)。SNSを通じて集まった35人の学生(制作当時)によるクリエーター集団「スタジオ3号車」で作り上げた。ロカは今年新設した中編対象のコンペ「インディー・ボックス」部門で、59カ国・地域の計225作品の中から、受賞候補の10作品に残った。

 うったまーが新潟映画祭を訪れたのは、昨年に続き2度目だ。前回は関係者からの声かけで、自主制作映画数本をまとめて上映する企画にロカのパイロット版を出品した。その際の打ち上げで、同席したファンタジア国際映画祭(カナダ)関係者からコンペへの出品を持ちかけられた。「英語が分からなくて、『イエス、イエス』って言っていたら、いつの間にかノミネートされていた」と笑う。

 そのファンタジア映画祭では短編アニメ部門の観客賞、金賞をダブル受賞。映画館での上映や、他のコンペでも受賞するきっかけとなった。「新潟での出会いが大きい。新潟は僕らの作品の第一歩だった」

アニメーションキャンプ参加者との交流会で笑顔で写真に納まるうったまー=2026年2月、新潟市中央区

 昨秋SNSで、新潟映画祭のインディー・ボックスの作品募集を知った。これまでは長編コンペしかなかったが、21分間のロカも対象となる。「ついに僕らも出せる。新潟の大きなスクリーンで作品を流したい」と応募は即決だった。

 映画祭当日、「新潟に帰ってきました」とスタッフに告げると、「待ってたよ」と熱い抱擁で迎えられた。気にかけてもらっていたと感じて、うれしかった。

 学生や若手クリエーターら同世代との交流会では、貪欲に話を聴く熱量に刺激をもらった。尊敬する岩井澤からは「焦らなくていい」とのアドバイスを受け、「僕も続きたい」と決意を新たにした。

 4月には、アニメの背景美術を専門とする会社に就職する。自身の武器と考える背景の技術をさらに高め、ゆくゆくは長編映画制作への挑戦を目指す。今回は受賞を逃したが、「グランプリを取れるような作品を作って、また新潟に帰ってきたい」と熱く語った。

映画祭のパネルに直筆でイラストを描くうったまー=2026年2月、新潟市中央区

 「新潟で見つけた、育てた人材は必ず新潟に帰ってくる」-。昨年6月に80歳で亡くなった新潟映画祭の創設者・堀越謙三が描いた未来の一端が、うったまーの姿から垣間見えた。

(敬称略) 

【LOCA!(ロカ)】オリジナルアニメーション映画で、テーマは「まいにちの楽しみを、一緒に見つけにいこう」。栄えた文明が崩壊し、旧文明が残した施設などを使って人々が暮らす中、2人の少女が古びた電車を見つけ、荒廃した世界を旅する物語。日常にある風景が美しく描かれている。京都国際クリエイターズアワードで最優秀賞。 

◆創設者・堀越謙三さんの思いをつなぐ「新潟国際アニメーション映画祭」 

新潟国際アニメーション映画祭で好評だったギャラリートーク。蕗谷虹児賞に輝いたアニメーター伊藤秀次さん(左)も思いを語った=2月、新潟市中央区

 新潟国際アニメーション映画祭は2023年、長編アニメに焦点を当てたアジア最大級の国際映画祭として始まった。創設に尽力したのが、東京の映画会社「ユーロスペース」代表で、開志専門職大(新潟市中央区)のアニメ・マンガ学部教授の堀越謙三さんだ。堀越さんは25年6月、志半ばで急逝したが、映画祭の先のまちづくりにまで、思いをはせていた。

 新潟市は長年、漫画・アニメを活用したまちづくりに取り組んできた。新潟県は多くの漫画家やアニメーターを輩出し、制作会社やアニメに関する教育機関も複数ある。だが、県外への発信が課題だった。

 「新潟がアニメに取り組んでいることは、東京では誰も知らない。有名にするのに、一番手っ取り早いのが映画祭だ」。そう考え、創設した。

 映画祭は国内外の監督や観客、アニメーターを目指す若者など、多くの人々が交差する場だ。堀越さんは交流の中から文化、産業が花開くと信じ、「新潟がアニメのシリコンバレーにならないか」と語っていた。

 映画祭では、日本のアニメ文化に大きな役割を果たした県人に着目。その名前を冠して、顕著な功績を挙げたスタジオに「大川博賞」、スタッフには「蕗谷虹児賞」を贈る。

蕗谷虹児賞を受賞し記念品を掲げる伊藤秀次(右)=2月、新潟市中央区

 大川は新潟市西蒲区中之口地域出身。日本初の本格的スタジオ東映動画(現・東映アニメーション)を立ち上げた。蕗谷は新発田市出身の叙情画家で、アニメ監督として活躍したことでも知られる。

 さらに、新潟が国際的な映画祭と肩を並べるため、柱に長編コンペティション部門を据えた。第4回では、中編対象のコンペ「インディー・ボックス」部門を新設。注目を集めた。

 新潟の映画祭は、監督に直接質問できるギャラリートークが大きな魅力だ。新潟市中央区の会社員の女性(30)は「距離が近くてびっくりした」と満足そうだった。

 第4回の映画祭は、親子連れの姿も目立った。初参加という新潟市北区の小学4年生の女児(10)は「新しいアニメに出合える。また来たい」と声を弾ませた。

 堀越さんは「フランスのアヌシー国際アニメーション映画祭と並ぶ、アニメのもう一つの極にしたい。そのために、50年続けたい」と語っていた。

 次回は27年3月に開催される予定だ。 

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 第4回新潟国際アニメーション映画祭が新潟市中央区を舞台に開かれた。運営体制の大きな変更や、創設者の急逝といった危機を乗り越え、前年を上回る来場者が訪れた。映画祭は人や文化などのいわば「交差点」。シリーズ「創造の交差点で」では、映画祭を振り返るとともに、映画祭が新潟の地域、産業にどんな影響を与える存在になるか、紹介する。

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