技術革新を推進してきた人工知能(AI)が、暮らしを脅かす事態が現実化している。AIを制御し、共存できる社会の実現へ、対策づくりを急がねばならない。
先端のAIによるサイバー攻撃に対応しようと国が動き出した。
動きが加速している背景には、米新興企業アンソロピックが開発した超高性能のAI「クロード・ミュトス」がある。
ミュトスは、インターネット上の弱点を発見する能力が飛躍的に高まったことが特徴だ。専門家は、弱点の発見と攻撃が同時に行われる可能性があるとし、防御の在り方そのものの見直しを迫られると指摘する。
AIを使った企業や政府、エネルギー施設など重要インフラへのサイバー攻撃は、既に各国で起きているが、ミュトスが悪用された場合は、攻撃が高度化、大規模化する恐れがある。
金融庁は政府や日銀、メガバンクやAI企業などを集め、情報の把握やセキュリティー強化の方向性について議論を始めた。当面の対応を5月末にもまとめる。
経済産業省も、電力事業者に対策の点検を求めた。
国民生活への深刻な影響を考慮すれば、官民で対策を講じることは喫緊の課題と言えよう。
アンソロピック自体も、悪用を強く警戒する。4月にミュトスの提供を始めたものの、一般公開は見送った。能力を完全に制御できないためとする。
これまで、米アップルなど通信、金融といった社会インフラを担う約50の企業、組織だけに提供し、それらの企業とともにサイバー攻撃に対する防御策を早期に確立するとしてきた。
日本もミュトスの使用を要請し、政府と三菱UFJ銀行など3メガバンクが、早ければ今月中にも利用できる見通しとなった。
実際にミュトスを使い、システムの脆弱(ぜいじゃく)性を検知することが可能になる。地域金融機関の防御策を含め、実効性のある対策を築くことが急がれる。
先端AIの悪用は、国を超えた脅威である。18、19日にパリで開かれる先進7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議でも、懸念を共有する見通しとなった。
経済がグローバル化する中、金融システムが攻撃を受けると、国際取引に混乱が生じかねない。金融市場を被害から守るため、世界的な協力を強化すべきだ。
米国は、ベネズエラ攻撃にも用いたアンソロピックの従来型AIについて、「完全な自律型兵器」への利用など軍事利用の拡大を求め、同社に拒否された経緯がある。大国が、技術の危険性への配慮を欠くようでは恐ろしい。
AIが人間の制御を超え得るという警戒が不可欠だ。慎重で広い議論の下、技術革新とルールづくりを両輪で進めねばならない。
