各国が連携し、感染を封じ込めなければならない。混乱を防ぐため、正しい情報を周知することも求められる。

 大西洋を航海していた約150人が乗るクルーズ船で、ネズミなど齧歯(げっし)類が媒介し、人が感染すると呼吸不全などを引き起こす「ハンタウイルス」の集団感染が疑われる事態が起きた。

 12日に記者会見した世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長によると、感染者は9人となった。このうち3人が亡くなった。

 他に2人に感染の疑いがある。日本人1人を含め、検査で問題のなかった乗客は、全員が帰国の途に就いた。

 船は4月に南米アルゼンチンを出航した。南米には、ハンタウイルスの中でも、人から人への感染が確認されている「アンデス型」が存在している。

 最初の感染者とみられるオランダ人の男性は、4月中旬に船内で死亡したが、当時は感染が疑われることはなかった。

 WHOに集団感染の疑いが通報されたのは、体調不良者が相次いだ5月2日になってからで、封じ込めが後手に回ったという指摘も出ている。

 新型コロナウイルスの爆発的な流行で、世界的に多くの人が犠牲となり、医療崩壊の危機に見舞われたのはわずか数年前のことだ。

 感染症への警戒が薄れていないか、問い直す必要があるだろう。

 クルーズ船は4月下旬に英領セントヘレナに寄港し、その際、1人の遺体を含む30人が船を離れたことが分かっている。

 すでにWHOと各国が追跡調査を始めた。感染の拡大を確実に防ぐため、各国が連携し、全員の健康を早急に把握してもらいたい。

 今回亡くなった人のうちオランダ人の夫妻は、乗船前にアルゼンチンでごみ処理施設などを訪ねたとの報道があり、アルゼンチン当局はその際にネズミと接触し、感染した可能性を調べている。

 ハンタウイルスは、日本国内での感染は確認されていないが、世界では年間数千件の感染例が報告されている。

 WHOは、新型コロナウイルスとは「感染の仕方が全く異なる」とし、一般市民への感染リスクは低いという考えを示す。

 ところが、クルーズ船が向かったアフリカの島国が入港を拒否し、最終的に乗客が下船した港でも住民たちが抗議の声を上げた。情報の不足も一因だろう。

 新型ウイルス禍では、誤った情報から感染者や、感染者と接触した人への差別や中傷が広がった。

 冷静な行動を促すためにも、専門家らはウイルスの最新の知見について、適切な情報提供に努めねばならない。

 海外に渡航する際には、動物に不用意に触らないなど、一人一人の注意も求められる。