ガンガラシバナ-。熱帯に咲く花でも猛毒の蛇でもない。五泉市の奥深く川内山塊の最高峰・矢筈(やはず)岳(1257メートル)の東に構える大岩壁だ。独特の語感が好奇心をかき立てる。かつて登山者にとっては難攻不落とされた
▼そんな難所も今は投稿動画で登山気分を味わうことができる。阿賀町の林道から踏み跡をたどり尾根を越え、早出川支流の沢を上る。川底が透き通る清流を堪能していると、やがて高さ500メートルの岩壁が姿を見せる。まさに秘境だ
▼むき出しの一枚岩は凹凸が少なく滑りやすい。雪渓を渡り、ザイルをつなぎルートを探る。谷を見下ろすと吸い込まれそうな絶景に息をのむ。緊張から解き放たれた踏破の瞬間、何を思うのだろう
▼ガンガラシバナに限らず、最近の登山に関する動画は美しく鮮やかだ。高性能な機材の軽量化が進み、20年前なら複数の取材班が必要だった撮影が「自撮り」でも可能になった。ただ視聴の気軽さゆえか、北アルプスの難所や冬山の登山が一見容易に感じられる。それが怖くもある
▼県外の山で遭遇した転落事故が忘れられない。まだ携帯電話は普及しておらず、泣きながら助けを求める登山者に止血用の三角巾とガーゼを手渡すことしかできなかった。想定外に命を落とすこともある自然の脅威を心に留めておきたい
▼新潟の山々は彩りの秋を迎える。うっとうしいアブやヤブ蚊は減り、穏やかな気分で登山を楽しめそうだ。でも、日暮れはあっという間。くれぐれも計画書の提出は忘れずに。