県外から先ごろ迎えた客人の反応がうれしかった。懇親の席に出てきた「鮭の焼き漬け」をえらく気に入ってくれた。ひと口ごとに「ヘェ」とうなる

▼九州からのその人は「温めて食べないのですか」「いつ食べるものですか」と興味津々。これに対して返せたのは「家では冷蔵庫から出してそのまま食べたり…ごちそうであったり朝食であったり…」という程度。気の利いた郷土料理エピソードを添えることはできなかった

▼焼いてたれに漬ける焼き漬けは、農林水産省が「次世代に伝えたい大切な味」の一覧に載せている。村上市の鮭文化とともに「保存食として江戸時代からつくられていた」と紹介する。切り餅のような長方形に身を切るのも珍しいらしい

▼しかし心配なことに鮭が取れなくなっている。県内捕獲数は前年より大幅に少なく、過去50年で最少になる恐れがある。「幻の魚になる」といった嘆きが聞こえてくる。このままでは採卵、放流、回帰という循環が危うい

▼伝統ある漁法や調理法を守っていけるかに関わってくる。軒下に塩引きがぶら下がる冬の景観はどうなるか。古く平安時代にも記録が残る越後と鮭との縁にとって危機ではないか

▼広島県などで起きているカキの大量死問題は臨時国会で取り上げられ、事業者支援策が示された。農相は広島の養殖場を視察した。各地から不漁が伝わってくる鮭を巡っても国政を巻き込んだ動きがあっていい。問題提起の手を挙げるのは、鮭との歩みが長い本県がふさわしい。