昨年9月、妙高市での選抜合宿に参加したその青年は順調に練習メニューをこなした。恒例の30キロ走も難なく走破。目標の箱根駅伝に向け着実に階段を上っていた

▼ところが…。訃報を聞いたのは先日。妙高市の市制20周年を記念して市内で催された講演会で、青山学院大の原晋監督が明かした。教え子だった皆渡星七(みなわたり・せな)さんは今年2月、悪性リンパ腫のため21歳で亡くなったという。来年正月、最終学年で箱根に臨むはずだった

▼原監督によれば妙高合宿から2カ月後の昨年11月に、皆渡さんは通学中の電車内で突然の腹痛に襲われた。途中駅で下車し自ら救急車を呼ぶ。検査でただごとではないと分かり故郷大阪の病院に入院した

▼病室からチームのミーティングにリモートで参加し、励ます仲間に「絶対帰ってくるから」と気丈に語り、逆に励ましたことも。「腹痛から4カ月たたずに亡くなることを、誰が想像したか」。明るいキャラクターで知られる監督も、この話題に触れた際は目頭を拭っているように見えた

▼往路5人、復路5人の計10人で競う箱根駅伝。合宿が縁でユニホームに「妙高市」の文字がある青学が2連覇中だが、各校の実力差は縮まり群雄割拠だ。しかし青学のたすきには11人目の大きな力が宿る気がする。11月のレースで青学ランナーは、寮生活で寝食を共にした皆渡さんへの思いを腕に書き、走った

▼努力すれば記録が伸びる自分たちの可能性に加え、命のはかなさも知ったチームの走りはきっと力強いだろう。