冬至のあす、北半球では昼間が最も短くなる。太陽の光が減退し植物が衰弱するこの時季に、新たな生命力をもたらす来訪者が各地を巡遊するという信仰がある
▼日本では民俗行事の大師講の大師と結びつき、西洋ではクリスマスのサンタクロースがその派生といわれる。悪いことが続いた後に運が向いてくるという「一陽来復」が、冬至を指すのも同じ発想だ
▼冬至を過ぎれば昼間が少しずつ長くなる。とはいえ、寒さはこれからが本番だ。この週末は気温が高く、年末も大荒れはなさそうだが、新潟での暮らしはこらえどころを迎える
▼例年通りなら、連日暗い灰色の空に覆われる。太平洋側から本県に越してきた人が、冬うつになると口説きたくなるのも分かる。新潟で生きる宿命だと受け入れるしかないが、文豪谷崎潤一郎の随筆「陰翳(いんえい)礼讃(らいさん)」が、少し心持ちを変えてくれる
▼谷崎は伝統的な日本家屋や漆器などを引き合いに日本に息づく美意識について書いた。「美は物体にあるのではなく、物体と物体との作り出す陰翳のあや、明暗にある」として、薄暗がりや陰があってこそ美しさは際立つと説いた
▼冬に言及したわけではなく、美意識だけで暮らしは語れない。ただ、日本的な美のように、いつも明るい太陽の光や青空を享受できる地域ではなく、どんよりした鉛色の空の下でしか醸成されない人間味もある。慎み深さ、人としての奥行きなどと考えてみれば、ほんのりと励まされる。陰があってこそ、陽のありがたみは増す。
