悩みごとの電話相談を受けるボランティアの体験談だ。明け方に電話をかけてきた相手は死にたいと繰り返した。どう応じるか思案しながら窓に目をやると、きれいな朝日が差し込んでいた
▼とっさに「窓から空を見上げてみませんか」と声をかけた。心に響いたかどうか分からない。しばらくやりとりした後、もう少し生きてみると告げて電話は切れた
▼新潟市が募った「にいがた市民文学」に空を見上げてという一文があった。「見上げた空はどこまでも広く、今日という一日を静かに教えてくれていた」。日常生活でふと空を見上げる瞬間をつづっていた
▼南国の青い空など癒やしを感じる画像を仕事の合間に見ると、疲労が和らぎ集中力や能率の低下を防げる-。大阪公立大の水野敬特任教授が、働く世代を対象に実験で確かめた。疲労軽減の仕組みや解消方法を研究する一環だ
▼癒やし効果があった画像は穏やかな風景がほとんどだという。逆に都市部のビルや車の渋滞などは疲れが減らない「癒やされない画像」と感じる人が多かったそうだ。日本疲労学会の理事も務める水野さんは「そもそも日本人は疲れすぎ。日々の生活でもっと癒やしを求めてもいいと思う」と言う
▼師走も後半に差し掛かった。雑事に追われていると、つい目線は下ばかり向いてしまう。気がかりなことを抱えていれば、なおさらだ。新潟の冬に快晴はあまり期待できないが、雲間に顔を出す青空がうれしい。意識して空を見上げるようにしてみませんか。
