読み進めることがつらくなって思わず本を閉じた。この秋出版された月村了衛さん著の「地上の楽園」。北朝鮮への帰還事業に関わった在日朝鮮人の若者2人を描いた小説だ

▼1人は地上の楽園の理想を信じて周囲の人を帰還事業に送り出す。1人はその友人に勧められて家族と北朝鮮に渡る決意をする。第1船が出た1959年12月14日に新潟港で2人の運命は分かれる。後にそれぞれを待ち受ける苦難は読まなくても想像がついた

▼日本に残った主人公が、食べるものにも事欠く渡航後の実態を知り、北朝鮮を礼賛する記事を書いた新聞社を訪ねる場面がある。なぜあんなうそを書いたのか、せめて訂正の記事を出してくれ、との訴えは門前払いされる

▼かつて小欄も、帰還した人が声をそろえて「帰ってよかった」と言っているとし、「近来にない成功だ」と書いた。60年6月30日の紙面だ。この時点で帰還船に乗ったのはおよそ2万9千人。最終的には9万3千人に上った

▼当時は、多くの人が北朝鮮を楽園だと信じていたのかもしれない。社会全体が送り出そうというムードだったのかもしれない。その中でもメディアは、情報の真偽を見定めるという役割を果たすべきだった。時がたっても、帰還を促してしまった責任と向き合わなければいけない

▼彼らが日本を出て北朝鮮を目指した背景には、厳しい差別と貧困があった。重い事実である。目を背けずに考え、伝え続けていきたい。きょうまで北朝鮮人権侵害問題の啓発週間だ。

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