人口減少が農業や観光、医療福祉にも影を落とす地域に、新型コロナウイルスの感染拡大が追い打ちをかけています。衆院選を迎えて展開する、地域の実情や住民の思いを伝える連載「知ってほしい」。今回のテーマは「果樹農家の後継者不足」です。

 新潟県内有数の果樹産地として知られる新潟市南区では、今年もナシやブドウの木がたわわな実をつけた。ただ近年は高齢化を背景に生産者の減少に歯止めがかからず、耕作放棄地も出ている。新規就農者の確保が課題となっている一方、就農を望みながら情報不足や初期投資が壁となるケースも。産地の維持へ、いかに両者を結びつけるか模索が続く。

 中ノ口川近くの茨曽根地区。関根秀一さん(72)が、12月に収穫するリンゴの生育状況を確かめていた。「育て方次第で出来が変わる。農業は深い」と実感を込める。

 桃農家に生まれ、中学卒業後に就農。30代で立ち上げた会社経営のため、親戚に農地を貸して長年農業から離れていたが、息子が会社を継いだ今年、久しぶりに果樹栽培に専念した。

 50アールの桃畑と15アールのリンゴ畑を1人で管理し、後継ぎはいない。近所の農家も高齢になり、「みんなができなくなれば荒れ地になる。先祖から守ってきたものを、そうはしたくない」と危機感を募らせる。

 JA新潟みらい(南区)によると、しろね果樹部会の現在の会員数は最多だった約20年前より4割ほど少ない426人。平均年齢は61・5歳と高齢化が進む一方、後継者がいるのは約2割にとどまる。

 新規就農者を呼び込もうと区やJAなどは今年、希望者が農家の下で研修を受けられる制度を創設。受け入れ先として農家14人が登録し、関根さんも手を挙げた。「本当は若い人と一緒にやってみたい。熱意がある人を応援したい」と待ちわびるが、申し込みは2人だけで、関根さんの元には来なかった。「結局勤めていた方が安定した収入があるからな」と厳しさを痛感する。

 果樹農家を目指す人にとって、収入が安定するまでの資金の確保がハードルとなる。昨年秋に就農した西白根の佐藤哲理さん(46)、美穂さん(40)夫妻は「機械や苗木の初期投資にお金がかかる。その上、果樹で食べていけるようになるのは5年後だ」と打ち明ける。

 南区産の果物を食べたことをきっかけに果樹農家を志し、3年前に子ども2人と東京から移住。準備資金を得るため、国の農業次世代人材投資事業を活用した。ただ、申請には「年間1200時間以上の研修」などの条件があり、受け入れ先の農家を探すことに苦労したという。

 就農のための農地の確保も一筋縄ではいかず、地道に農家とのつながりをつくって情報を得た。哲理さんは「就農したいという人は潜在的にいると思う。もっと情報がオープンになれば、マッチングがうまくいくのではないか」と指摘。新規就農者が産地に入りやすい環境づくりを求める。

 佐藤さん夫妻はこの秋、初めての収穫を経験した。「おいしいと言ってもらえるのは本当にうれしい」と美穂さん。収入はまだ十分ではないが、農業のやりがいを感じる日々だ。

 先細る産地の営みをどう次の世代につないでいくか。美穂さんは「農家の技術を新規就農者に直接教えてもらう機会が大切。それが産地を維持することにつながっていく」と先を見据える。

(報道部・西山祥子)

◎支援事業の条件緩和を

佐藤哲理さんの話 研修時間などの申請条件が厳しい国の農業次世代人材投資事業は、アルバイトなどをしながら就農に取り組む人らも使いやすくしてほしい。またコメだけでなく南区産の果物も全国に自由に流通させて、いい物を作っていることを全国にアピールできるようにしてほしい。