人口減少が農業や観光、医療福祉にも影を落とす地域に、新型コロナウイルスの感染拡大が追い打ちをかけています。衆院選を迎えて展開する、地域の実情や住民の思いを伝える連載「知ってほしい」。今回のテーマは「観光業の疲弊」です。

 日本海側の海水浴場発祥の地とされる柏崎市。柏崎市史によると、起源は約130年前の1888(明治21)年にさかのぼる。

 130年を超える歴史がある旅館「浪花屋夕凪(ゆうなぎ)亭」は、「日本の渚(なぎさ)百選」にも選ばれている鯨波海岸の近くに立地する。社長の佐藤秀則さん(63)は「夏の宿泊は海水浴客が多い。ただ、ことし8月の売り上げは新型コロナウイルス禍前の4割減だった。厳しい状況だ」とつぶやく。

 柏崎市は約42キロの海岸線に県内最多となる15の海水浴場があり、ピーク時には県内外から100万人超が訪れた。市の観光の柱で、海水浴客による宿泊や土産物、飲食などの消費は地域経済を潤してきた。

 しかし、近年はレジャーの多様化などを背景に、海水浴客は減少傾向だった。そこへ新型ウイルスの感染拡大が加わり、市内の観光関連産業は打撃を受けている。

 ウイルス「第1波」が来た20年4~6月の浪花屋の売り上げは、前年の同じ時期に比べて8割減にまで落ち込んだ。

 その後、国の観光支援策「Go To トラベル」の恩恵で以前のような活気が戻った。しかし再びの感染拡大を受け、「Go To」が停止された20年12月から21年8月の売り上げは、感染禍前の同期比で6割減と再び苦境に。宴会需要も戻る気配がない。

 「長いトンネルの出口が見えない、非常に厳しい状況だ。予約のキャンセルが相次ぎ、昨年末から年始にかけては休んだ。年末年始を休むのは何十年ぶりだろうか」と打ち明ける。

 売り上げを確保するため、仕出し弁当を始め、イベントに鯛(たい)飯を出すなどした。「行政の支援におんぶに抱っこではなく、できることをやる」と語り、手探りで自助努力をしている。

 それでも、自社だけでは解決できない問題もある。

 旅行需要の喚起や、旅行消費につながる経済の立て直しなどだ。「この部分で国の力を借りないと前に進めない」と訴える。

 旅館やホテルは取引業者が多い。浪花屋では約70社に上り、宿泊客の減少は取引業者の業績にも直結する。

 「感染禍で体力を奪われ、年を越せない宿泊業者も出てくるのではないか。これからが正念場だ」と指摘し、地域経済のさらなる落ち込みを懸念している。

 衆院選で各党はさまざまなウイルス対策、支援策を示している。佐藤さんは政治家に対し、「現場を歩いて、声を聞き、スピード感を持って政策を打ち出してほしい」と語った。

(柏崎総局・野瀬和紀)

◎需要喚起へ支援策を

佐藤秀則さんの話 新型ウイルスの流行「第6波」が来る前に、旅行需要の喚起策を実施してほしい。助成金の申請手続きの簡素化や内容の周知徹底、スピーディーな支給を求めたい。経済を動かすような政策を望みたい。