出歩くと、頰をなでるそよ風が心地よい時季になった。風という言葉には、それらしい態度やそぶりを示す意味もある。先輩風、役人風というように

▼「都会風を吹かさないよう心掛けてください」。福井県のある町の広報誌に1月、こんな「提言」が掲載された。町外からの移住者に向けた心得をまとめたものだ。「多くの人々の注目と品定めがなされていることを自覚してください」とも

▼プライバシーに深く立ち入らない、迷惑をかけない限り自由な生き方が許される-。そんな都会のドライな生活に慣れた人にとっては、いささか面食らう内容かもしれない。一部から批判の声が上がるなど物議を醸した

▼地元の人にも言い分はある。高齢化が進み、集落の行事が少なくなった。「隣は何をする人ぞ」の風潮が広がり、このままでは町民の絆が失われかねない。そんな危機感を抱く人もいたという。U・Iターン促進を掲げる本県も人ごとではない

▼田舎と町のネズミの寓話(ぐうわ)を引くまでもなく、それぞれの暮らし方には一長一短がある。時代とともにライフスタイルは多様化している。「郷に入っては郷に従え」の一点張りでは立ちゆかない

▼町では今後、住民同士が気持ちよく暮らすためのテキスト作りを始める。相互理解につながるのか。提言は「今までの自己価値観を押し付けない」とも記す。年度が改まり、新天地での生活を始めた人には参考になる。我を張るあまり周囲と波風を立てても得はない。譲り合いの心が望ましい。

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