柏崎から長岡に抜ける峠道に、古い電話ボックスがぽつんとある。夜中に通ると、暗闇の中で鈍い光を放っている。「なぜ、こんな場所に」。電話ボックス自体が珍しい昨今、いつも不思議に思う

▼市街地ではおおむね1キロ四方に1台とか、公衆電話には設置基準がある。ただ、ほとんどの人が携帯電話を持つ時代になり、公衆電話の台数は大きく減った

▼2011年3月11日に発生した東日本大震災では、回線が混雑し携帯電話がなかなか通じなかった。「家族や友人は大丈夫だろうか」。不安を胸にダイヤルし続けた人は多いだろう。災害時に避難所に設置される無料の特設公衆電話は、大震災などを機に導入が進んだ

▼岩手県大槌町にある「風の電話」は、回線がつながっていない。電話ボックスには古いダイヤル式の電話が置いてあるだけ。大震災の犠牲者に遺族らが語りかけ、思いを通わせる電話として知られる

▼これまでに海外からも含め5万人以上が訪れている。映画にもなった。大震災で家族を亡くした主人公の女子高生が、風の電話を通して生きる力を取り戻す物語だった

▼あれから15年。木製のボックスは全国からの寄付でアルミ製に交換されるなど、大切にされてきた。設置した佐々木格(いたる)さんは80歳を超え、現在は体調を崩して療養中だ。ホームページには「風の電話の維持管理・継続の危機に直面しています」と心配な一文もある。歳月を重ねた風の電話が、これからも傷ついた人の心に寄り添う存在であってほしい。