「格差を埋めるための奨学金がかえって格差を広げている」。少し前の本紙おとなプラスに気になる言葉を見つけた。発言の主は、学生時代に借りた奨学金の返済に苦しむ人を支えるプロジェクトに取り組む大学院生だった

▼家庭が経済的に苦しい人にとって進学は奨学金頼み。ところが返済が重荷になり、卒業後も生活苦に陥ることがある。奨学金は生まれた家の経済力による教育格差を是正するためにあるはずだが、返済の重荷が新たな格差を生む。大学院生はそんな矛盾を指摘していた

▼プロジェクトのオンライン調査によると、日本学生支援機構の奨学金を利用した大学卒業生らの6割が年収300万円以下。3割が返済を延滞したことがあり、1割が自己破産を検討していた。「子どもに障害があって仕事をやめざるを得なかったが、500万円の返済が…」。こんな悲痛な声も寄せられた

▼そんな状況に対し、学生時代に奨学金を借りた社員の返済を肩代わりする制度を導入する企業が増えている。人手不足対策や離職防止の側面もあるようだ。元奨学生を周囲が支える仕組みといえる

▼ただ、景気の動向などによって企業の姿勢も変わる可能性がある。返済の必要がない給付型の制度もあるが、日本では実質的には借金である貸与型が中心だ

▼奨学金制度の出発点は格差の是正だとすれば、学ぶ意欲がある人を社会全体で支える仕組みが欠かせない。奨学金返済の重荷が社会問題として扱われるようになってから随分たつのだが。

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