「電源喪失」と聞くと恐ろしい記憶がよみがえる。ちょうど11年前、東京電力福島第1原発で起きた事故を思い出さずにはいられない。ウクライナのチェルノブイリ原発で、ロシアの軍事行動により停電が起きた

▼チェルノブイリは稼働を停止しているが、使用済み燃料は冷やし続けなければならない。電源が失われれば放射性物質が漏れ出す恐れがある。国際原子力機関(IAEA)は、燃料が入るプールには十分な水があるので当面冷却に問題はないとする。しかし停電が長期化した場合はどうだろう

▼11年前の福島第1では東日本大震災の津波で稼働中の原発への電源供給が断たれた。原子力の火がたけり狂うのを制御できず、大量の放射性物質が放出された。広い範囲の住民が避難を余儀なくされ、本県にも多数の人々が身を寄せた

▼稼働停止から20年以上たっているチェルノブイリと当時の福島第1とでは状況が異なる。恐怖をあおるロシアの戦術かもしれない。それでも身近で起きた過酷事故の記憶が蘇生し、まとわりついて離れない。そう感じた方も多いのではないか

▼プーチン大統領が核兵器の使用をにおわせ、ロシア軍はウクライナの原発に砲弾を放つ。侵略者は核をもてあそぶ姿勢をますますあらわにする。戦火にさらされた原発の今後が心配だ

▼11年前の巨大地震が引き起こした惨禍と、原発事故によって奪われたものの大きさを忘れてはならない。だからといって、こんな形であの日のことを思い出したくはなかった。

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