新たな条例で監視が強まり、香港の中国化がさらに進みかねない。市民の自由や企業活動が一段と萎縮する事態が危惧される。
香港の議会に当たる立法府で、国家安全条例が全会一致で可決、施行された。
条例は国家への反逆や反乱の扇動、国家機密の窃取やスパイ行為、外国勢力による干渉を禁じている。一部を除き海外での行為も適用される。最高は終身刑となる。
2020年施行の香港国家安全維持法(国安法)を補完する役割がある。扇動の定義が拡大され、言論や出版、表現の自由にも一層制限がかかる。
トップの行政長官に国家機密の範囲を認定する権限を与えた。拘束力のある付属条文を香港当局が作成できる権限まで付与した。
最大の問題は、犯罪行為の定義があいまいなことだ。機密の範囲や扇動の意図の有無が、当局の判断に委ねられる余地が大きい。
03年に条例制定を目指した際は50万人規模の抗議デモが起きて断念した。だが20年に国安法を導入し、民主化の訴えや中国共産党批判を抑え込んでいる。条例でさらに社会統制が強まるのは必至だ。
条例制定は、国家安全を重視する中国の習近平指導部の意向が背景にある。本土での監視強化の動きに歩調を合わせたとみられる。
今回の制定に際し、香港市民からほとんど反対の声が出なかったのは、考えを披露すること自体が危険だと感じたからだろう。
23日の条例施行後には、国安法違反で有罪判決となり、25日に出所予定だった民主活動家の減刑措置が取り消された。民主派への圧力が強まったといえる。
条例に関し、日米欧はそれぞれ声明で懸念を表明した。
日本の外務報道官は、香港に高度の自治を認めた「一国二制度」への信頼を「さらに損なわせる」と批判し、香港で邦人や日本企業の権利が保護されるよう中国政府などに求めるとした。
邦人や日本を含む外国企業などが、従前のやり方が突然、犯罪とみなされるのではないかと不安を抱くのは当然だ。
香港や中国の政策に外国の団体が不当な手段で干渉するのに協力したと見なされれば最高で懲役14年となる。
中国はスパイ対策強化で、外国企業の投資も落ち込んだ。23年の外貨企業による中国への直接投資は前年比82%減だった。中国への外国人留学生も急減している。
香港でも中国本土と同様の状況になりかねない。企業撤退の動きも表面化した。米国の一部メディアは香港の拠点をなくす。
香港は、本土と海外の結節点として独自の地位を保ってきた。
だが条例で監視を一層強めれば、企業などの香港離れは加速し、アジアでの相対的な地位も下がることを香港当局は自覚すべきだ。