首相の答弁には極めて重い意味があることをしっかりと認識する必要がある。緊張を高めるような先走った答弁では危うい。

 中国が台湾に武力侵攻する台湾有事について、高市早苗首相は、日本が集団的自衛権を行使できる「存立危機事態」に、状況次第で該当するとの見解を示した。

 衆院予算委員会で「戦艦を使い、武力の行使も伴うものであれば、存立危機事態になり得るケースだと考える」と答弁した。

 台湾有事と存立危機事態の関わりは、これまで政府が明言を避けてきた問題だ。昨年2月には当時の岸田文雄首相が「個別具体的な状況に即し情報を総合して判断することとなるため、一概に述べることは困難だ」と答弁した。

 歴代内閣が具体例に踏み込まなかったのは、実際の有事の際に、過去の答弁との整合性を問われる可能性があるからだろう。

 高市首相は「政府の立場を変えるものではない」とするものの、歴代内閣の公式見解を踏み越えていることは明らかだ。

 今年9月の自民党総裁選立候補会見でも首相は「台湾有事が日本有事なのは間違いない。いざという時のためにシミュレーションをしておくのは大事だ」と述べていた。就任前からの持論といえる。

 自らの答弁について、首相は「政府統一見解として出すつもりはない」とも答えている。

 しかし、現役の首相が国会で答弁すれば、政府の公式見解とみなされる。そう自覚し、慎重に言葉を選ぶ必要がある。

 懸念するのは、首相の発言を発端に、日中間の軍事的な緊張が高まる恐れがあることだ。

 首相の答弁に対し、中国外務省は「公然と誤った発言をし、台湾海峡を巡る武力介入の可能性を示唆した」と猛反発した。台湾問題に介入すれば「中日関係は深刻に破壊される」とも訴えた。

 中国は台湾を「核心的利益」と位置付け、台湾問題への介入を許さない立場だ。日台関係を重視してきた首相を警戒している。

 首相に求められるのは、軍事衝突のリスクを下げるための模索だ。それには日中関係に配慮した言動が欠かせない。

 一方、首相の答弁に、中国の駐大阪総領事が自身のX(旧ツイッター)で「汚い首は斬ってやる」などと投稿したことは、どう喝と受け取れるもので看過できない。

 投稿に対し、政府が中国側に強く抗議したことは当然だ。

 首相の答弁に関しては、来年を目指す安全保障関連3文書の改定で、非核三原則を堅持するかを問われ、明言しなかったことも今後の懸念材料になりかねない。

 安保環境が厳しさを増し、核共有や核保有の主張も聞かれる。だが、唯一の戦争被爆国である日本の首相には、非核の基本姿勢を断固として守ってもらいたい。