聴覚に頼らず選手同士がどのように連係するか、その工夫も競技を楽しむポイントになる。祭典の開催を多様なコミュニケーションを広げる機会にしたい。
聴覚障害者の国際スポーツ大会「東京デフリンピック」が15日、開幕した。英語で「耳が聞こえない」を意味する「デフ」と「オリンピック」を合わせている。
サッカーなどの21競技に81カ国・地域から約3千人が集う。東京、福島、静岡を会場に26日まで開かれる。本県からは3競技に5人が出場を予定する。
ろう者への差別を払拭しようと1924年にパリで始まった大会が原点になった。日本での開催は初めてである。100年の歴史がある大会を身近に観戦できることを喜びたい。
話し声と同程度の55〓が聞こえない選手のための大会だ。競技中は補聴器の使用は認められない。
号砲に代えてスタートランプを用いるなど選手が視覚で情報を得られるよう工夫している。その他は、健聴者の競技とほぼ同じルールで行われる。
卓球であれば、健聴者は相手のラケットに当たる音の強弱も参考に球の速さを判別することができるが、デフの選手はそれがかなわない。高い集中力で反応の遅れを補うよう練習する。研ぎ澄まされたプレーが展開されそうだ。
連係が必要な団体競技では首振りやアイコンタクト、手話によって意思を伝え合う。
相手チームに手話を見られないようにするのが基本だが、実際と異なる戦略をあえて手話で見せて相手を惑わせることもあるというから、選手のしぐさ一つ一つに注目したい。
妻の沼倉千紘選手と共にバドミントン混合ダブルスの金メダルに挑む長岡市の沼倉昌明選手は、開催に当たり「デフリンピックはコミュニケーションの祭典だと思っています」とコメントを寄せた。
手話は国や地域、世代によって異なる。今大会は表現の違いを楽しみ、手話という言語への理解を深める機会になるに違いない。
国内の多くのろう学校で手話が禁じられた時代もあったが、今年6月には「手話施策推進法」が成立した。スポーツや文化活動を通して普及を図ることも大切な取り組みになる。
耳が不自由な人が気兼ねなく手話を使える環境を整えていかねばならない。それが誰もが暮らしやすい社会につながるはずだ。
