言葉による暴力は許されない。まして、言葉によって有権者に支持を訴え、議会で意見を戦わせる政治家は慎重に発言するべきだ。
政治団体のトップが、その発言を巡って逮捕される異例の事態を憂慮する。
兵庫県知事の疑惑告発文書問題を追及し、死亡した元県議、竹内英明氏に対する虚偽発言やデマで名誉を傷つけたとして、県警が名誉毀損(きそん)の疑いで政治団体「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志容疑者を逮捕、送検した。
逮捕容疑によると、立花容疑者は昨年12月、大阪府泉大津市長選の街頭演説で「竹内議員は、警察の取り調べを受けているのは多分間違いない」と発言した。
竹内氏は今年1月、死去した。自殺とみられる。その後、立花容疑者は交流サイト(SNS)などで「逮捕される予定だったそうです」などの虚偽の情報を発信し、名誉を傷つけた疑いがある。
県警は1月、当時の本部長が情報を明確に否定し、立花容疑者は「間違いでした。訂正しおわびします」と投稿動画で謝罪した。
しかし、竹内氏の妻が「命を絶った夫の尊厳を守りたい」と告訴していた。
捜査関係者によると、立花容疑者は演説で発言した事実については間違いないとの趣旨の供述をしているという。
死者に対する名誉毀損の場合、虚偽の情報であることを行為者が「確定的に認識」した上で発信した場合に罪が成立するとされている。生前の場合よりも立件のハードルが高いとされる。
捜査の焦点は、立花容疑者がどんな資料に基づき、発言や発信をしたのかだろう。党首という責任の重さを自覚し、捜査に全面的に協力するべきだ。
立花容疑者は、文書問題の百条委員長だった別の県議への名誉毀損容疑などでも書類送検されている。捜査の行方を注視したい。
N党は唯一の参院議員が、少数与党の自民党と会派を組んでいたが、立花容疑者の逮捕を受け、会派を解消した。
看過できないのは、立花容疑者の発信した情報がSNSで拡散され、県警が注意を呼びかける事態にまで発展したことである。
竹内氏の妻は「夫を一方的に責め立てる攻撃が矢のように降り注いだ」と振り返り、「耐えがたい地獄だ」と訴えた。
SNSには真偽不明の投稿を無批判に信じる層が一定数存在すると指摘される。
否定的な情報が拡散された被害者は、心理的に深刻な打撃を受けることになる。
虚偽の情報をうのみにして拡散した人も刑事や民事上の責任を問われる可能性があるという。
SNSを利用する際は、情報の真偽を確認するまで拡散しない慎重な姿勢が求められる。
