官民の投資によって、企業収益を高められれば、税収を増やすことも可能だ。好循環を生み出せるかが鍵を握る。
政府は、新政権の経済政策を議論する「日本成長戦略本部」の初会合を開いた。人工知能(AI)・半導体や造船など17の戦略分野を指定し、官民が連携して重点的に投資する方針を決めた。
高市早苗首相は「日本の供給構造を抜本的に強化し、強い経済を実現するための成長戦略を強力に推進する」と訴えた。来年夏の成長戦略の取りまとめを目指す。
17分野のうち、AIには経済成長のけん引が期待され、造船はトランプ米大統領の来日に合わせて日米両政府が協力を推進する覚書を結んでいる。
航空・宇宙や重要鉱物などの分野でも投資を進める。漫画やアニメ、防災も対象とする。
首相は衆院代表質問で、成長戦略に関し「『責任ある積極財政』の考え方の下、戦略的に財政出動する」と述べた。
幅広い分野を対象に、満遍なく投資したのでは、費用対効果が低くなりかねない。
投資に失敗すれば、国の財源が潤うどころか、国民負担となって跳ね返る懸念もある。
投資する具体的な内容や時期、総額を、しっかり見極めることが重要だ。防衛産業も重点投資の対象に指定した点は、注意深く見る必要がある。
歴代の内閣は、経済成長に関する会議体の看板のかけ替えを繰り返してきた印象がある。
高市内閣の日本成長戦略本部は、第2次安倍内閣が2013年に立ち上げた産業競争力会議が源流だ。菅内閣の成長戦略会議、岸田内閣の新しい資本主義実現会議へと代わり、石破内閣はそのまま引き継いだ。
国内総生産(GDP)は上昇基調をたどり、日経平均株価は、5万円の大台を超えるまでになった。根底には、安倍内閣が大規模な金融緩和で投資や消費を刺激し続けた効果がある。
忘れてならないのは、国民の間に暮らしが豊かになったという実感が乏しいことだ。
13年から24年までの12年間で実質賃金が増えたのは3年だけだ。税と社会保険の負担増や物価高により、多くの家庭は生活の向上を感じられていない。
24年度の国の税収は5年連続で過去最高を更新したが、物価高による支出増によって消費税収が伸びたことなどが主な理由である。日本経済が強くなったとは言い切れないのが実情だ。
そもそも、政府の経済政策による投資拡大効果は一時的で、日本経済全体への波及効果も小さいとの指摘がある。
民間から投資を呼び込む環境づくりに、一層知恵を絞らなければならない。
