鹿児島県警で、逮捕者や疑惑が続出し、混迷が深まっている。捜査過程で報道の自由が脅かされることもあった。民主主義を揺るがしかねぬ事態だ。深く憂慮する。

 鹿児島県警は、捜査資料を漏えいしたとして、地方公務員法(守秘義務)違反の疑いで県警巡査長=懲戒免職、起訴=を逮捕した事件の捜査で、ニュースサイトを運営する福岡市の男性の自宅を関係先として捜索した。

 男性の運営するサイトは、捜査資料の写真を掲載するなどし、県警に批判的な報道を続けていた。

 県警は、パソコンと携帯電話を押収した。男性は保存されていた保存データが、返還時に同意なく消去されていたとしている。

 男性宅の捜査は、情報源を割り出すためだったようにも映る。

 「ジャーナリズムの鉄則」である取材源の秘匿や報道の自由が脅かされれば、報道機関が萎縮し、公益通報も難しくなる。

 メディアへの強制捜査は、市民に情報を伝えるパイプを破壊する。県警には強く自省を求めたい。

 さらに問題なのは、押収した証拠をきっかけに、県警が別の情報漏えいの疑いで前県警生活安全部長=起訴=も逮捕したことだ。

 別事件の捜索で見つけた資料で逮捕する手法には、県警関係者でさえ懸念を示している。

 前部長は、県警の不祥事に関する情報を第三者に郵送した。動機は、本部長が別の県警職員による盗撮事件を隠蔽(いんぺい)しようとしたことが許せなかったとしている。

 新潟県警の勤務経験もあるこの本部長は「隠蔽を意図して指示したことは一切ない」と否定する。

 21日の会見でも本部長は改めて隠蔽を否定した。前部長のメディアへの情報提供は「公益通報ではない」とも強調した。だがその説明には釈然としないものが残る。

 なぜ不可解な問題が続出するのか。警察庁は来週にも鹿児島県警へ監察官を派遣する。経緯と真相を徹底的に解明せねばならない。

 鹿児島県警を巡っては、再審請求や国家賠償請求などを念頭に「組織的にプラスになることはない」として、捜査書類の速やかな廃棄を促す内部文書を作成していたことも見過ごせない。

 人権より組織の保身を優先するものであり、とんでもない話だ。

 再審請求では、検察側が新たに開示した証拠が無罪立証の決め手につながったケースもある。

 1966年に一家4人が殺害された事件で死刑が確定した袴田巌さんの場合は、第2次再審請求審で新証拠が開示された。

 専門家らが、県警の文書を「『再審つぶし』であり、不当性が高い」「無罪の主張が難しくなる」などと非難するのは当然だ。

 都合の悪いことを抹消、隠蔽する体質への疑問が浮かぶ。冤罪(えんざい)をなくすために証拠作成や保管、開示を含む法規制を検討すべきだ。