旧紙幣からの移行を官民挙げて混乱なく進め、国民が愛着を持てる紙幣にしたい。キャッシュレス化が進んでいるとはいえ、誰でも、どこでも使える紙幣の使い勝手が悪くては困る。
日銀は3日、約20年ぶりにデザインを刷新した紙幣を発行し、金融機関へ引き渡した。
1万円札と5千円札、千円札の3種類で、1万円札の肖像は「日本の資本主義の父」と呼ばれる実業家の渋沢栄一に代わった。
5千円札は女性の地位向上に尽力した教育家の津田梅子、千円札は近代医学の基礎を築いた北里柴三郎になった。
新紙幣の大きな特徴は、偽造防止のため、肖像の3D画像が回転するように見えるホログラム技術を世界で初めて採用したことだ。
ユニバーサルデザインを取り入れ使いやすさも向上した。額面の洋数字を大きくし、インキを高く盛り上げて目の不自由な人が手触りで判別できるようにした。
旧紙幣も引き続き使用できる。従来の紙幣は使えなくなるとしてだまし取る便乗詐欺には、気を付けねばならない。警視庁によると、既に被害が出ている。
懸念されるのは、自動販売機や券売機などで新紙幣が使えるようにするための改修が間に合わない所もあることだ。
日本自動販売システム機械工業会によると、新紙幣は、金融機関のATMでは9割以上の機器で使用できるが、飲食店の券売機や駐車場の精算機は5割程度、飲料の自販機は2~3割程度と低い。
改修費用が高額なことが原因だ。事業規模にもよるが億単位を要するケースもあり、物価高や人手不足に苦しむ企業にとっては三重苦になる。
どこでも使えるようになるには1~2年ほどかかる見込みという。自販機では、2021年11月に導入された新500円硬貨でさえ対応が完全に済んでいない。
政府や日銀が、紙幣や硬貨と違って形のない法定通貨「デジタル円」の導入を検討している中での新紙幣発行でもある。
キャッシュレス決済額は22年に100兆円を突破、消費全体に占める割合は36%となった。
とはいえ、キャッシュレスに対応が困難な人も多く、現金志向も根強い。紙幣の必要性がなくなるとは当面考えられない。
利用者に不便やトラブルが生じることがないよう政府はしっかり目配りし、問題が多発するなら対策を講じるべきだろう。