隣国首脳との対話の維持は、地域の平和と安定に不可欠だ。首相は会談を継続し、課題解決を図るために力を尽くさねばならない。

 「米国第一」を掲げるトランプ次期米大統領の返り咲きは、世界情勢や各国外交に大きな影響を与えるだろう。首相はどう関係を築くか、外交力が問われる。

 石破茂首相がアジア太平洋経済協力会議(APEC)や20カ国・地域(G20)首脳会議に出席するため南米を訪問し、多くの首脳とも個別に会談した。先月の首相就任以来、本格的な外交を始動させたといえる。

 注目されたのは、中国の習近平国家主席との初会談だ。日本の首相としては、昨年11月の岸田文雄前首相以来、1年ぶりとなる。

 両首脳は、東京電力福島第1原発の処理水海洋放出を巡り、中国が全面停止してきた日本産水産物の輸入再開の合意を着実に履行すると確認した。

 輸入再開は対中外交で最大の懸案の一つだ。9月に再開を合意していたが、開始時期は示されていなかった。習氏の言及により、中国側の動きが加速する可能性があるだろう。

 日中の共通利益を拡大する「戦略的互恵関係」の包括的な推進や、今後も両首脳が会談を重ねる方針でも一致した。

 習氏は、対中強硬姿勢を示すトランプ氏の就任を前に、日本を少しでも引き寄せておきたい意向があるとされている。

 岸田前首相は在任中、習氏と対面で会談したのは2回だけだった。石破首相には、習氏と頻繁に顔を突き合わせ、信頼関係を構築してもらいたい。

 中国で拘束された邦人の釈放は急務だ。深圳での男児刺殺など凶悪事件が起きている中で、邦人の安全確保も図らねばならない。

 首相は会談で、中国軍が活動を活発化させていることへの憂慮も伝えた。8月に中国軍機が初めて日本に領空侵犯したり、10月に台湾を包囲する海空域で大規模軍事演習を行ったりした。

 今後も、地域の平和を脅かすことがないよう、習氏に強く主張していくべきだ。

 首相とバイデン米大統領、韓国の尹錫悦(ユンソンニョル)大統領との3カ国首脳会談も開かれた。

 連携枠組みの固定化に向け、安全保障分野などでの協力を調整する事務局組織の新設で合意した。多国間枠組みを嫌うトランプ氏の就任を見据えてのことだ。

 米国の保護主義が強まることに警戒感はあるが、G20の首脳宣言は、保護主義への反対姿勢を明確に示せなかった。

 これ以上世界の分断を深めてはならず、各国は外交による国際協調の強化が求められる。首相は、米国をはじめ各国首脳と意思疎通を図り、国際秩序の堅持へ主体的に関与してもらいたい。