世界を翻弄(ほんろう)した1カ月だ。行き過ぎた米国第一主義が、自由貿易体制など世界の秩序を危うくしているようにも見える。国際社会を挙げて自制を求め、世界経済の停滞や混乱を抑える必要がある。

 米国の第2次トランプ政権が1月20日に発足してから1カ月が過ぎた。トランプ大統領はこれまでに約70本に上る大統領令を出し、内政や外交、通商など幅広い分野で従来の政策を転換している。

 特に世界を混乱させているのは、次々に打ち出す関税措置だ。

 2月1日にはカナダ、メキシコ、中国に関税をかけると発表した。カナダ、メキシコとは不法移民対策強化で合意し発動を1カ月延期したが、中国には10%の追加関税を発動した。

 中国は報復措置として米国製品に最大15%の追加関税を課した。

 その後、トランプ氏は鉄鋼、アルミニウムの関税を25%に強化する方針を決めた。相手国が課す関税率と同程度の関税をかける「相互関税」の導入に向けた大統領覚書にも署名した。

 日本に影響が大きいとみられるのは、自動車に対する関税強化だ。自動車は対米輸出額の3割近くを占めるからだ。

 トランプ氏は25%程度の関税を4月以降に発動するとしている。

 発動されれば自動車メーカーはもちろん、取引する部品メーカーなどもダメージを受ける。

 本県などの地域経済にも悪影響が及ぶ可能性がある。物価と賃金がともに上昇する経済の好循環は遠のくだろう。

 武藤容治経済産業相が近く訪米し、自動車関税の対象から日本を除外するよう要請する方針だ。

 関税強化は米国経済にも打撃となることや、日系メーカーが米国内で投資を強化していることなどを訴えながら交渉してほしい。

 一方、根本的な対策として重要なのは、トランプ氏に自制を促すことだ。トランプ氏には関税で脅し、有利に取引をしようとの思惑があるとされるだけに、各国間の協調が欠かせない。

 日米首脳会談でトランプ氏に厚遇され、信頼関係構築の足がかりをつくった石破茂首相のリーダーシップを期待したい。

 トランプ氏はパレスチナ自治区ガザの住民を移住させ、米国が所有して開発すると表明した。ウクライナを除外して米ロ和平交渉に着手した。

 バイデン前政権が推進した多様性・公平性・包括性(DEI)施策を終わらせようとしている。

 虚実ない交ぜの情報を洪水のように発信し、他国のリーダーをこき下ろすようなこともある。

 トランプ氏の度を越した言動は、米国の信頼を失墜させかねない。米国が主導してつくり上げてきた世界の通商ルールや規範、価値観を、米国自らが壊しているように見えることは残念だ。