日本の安全保障環境が厳しさを増す中で、自衛隊部隊の即応力を高めることは必要だ。政治が軍事に優先する文民統制が、きちんと機能する適切な部隊運用に努めねばならない。

 陸海空3自衛隊を一元的に指揮する防衛省の常設組織「統合作戦司令部」が発足した。平時から3自衛隊を束ねる強大な権限を持つ自衛官中心の組織だ。司令官は陸海空自トップの各幕僚長と同等の将官が務める。

 自衛隊はこれまで、大規模災害などが起きてから統合任務部隊を臨時編成する仕組みで、部隊運用は、制服組トップの統合幕僚長が担っていた。

 しかし、統幕長は軍事専門的見地から防衛相を補佐する職務も兼ねるため、政治の対応に追われ、政府内では部隊運用に特化した組織を求める声があった。

 常設の司令部を設置し、平時から部隊の状況を把握する。有事の際に切れ目ない運用ができる体制は、軍事的合理性の観点から理にかなっているだろう。

 大規模災害時でも速やかな部隊運用が期待される。

 一方、文民統制の面からは、司令官による権限行使が適正であるかどうかを、国民に示していくことが肝要だ。

 司令官は各幕僚長と異なり、定例の記者会見が予定されない。部隊の運用情報は機密性が高く、司令官の考え方や情勢認識を国民が把握するのは難しい。

 司令部の背広組の文官は「司令官補佐官」のみだ。民主主義国家の要諦である文民統制が機能していることを国民にどう示すか、政府は丁寧な説明が不可欠だ。

 日米の軍事面の一体化はさらに進むとみられる。

 司令部は米軍と運用・作戦面でのカウンターパートを務める。共同対処能力の向上を図る中で、日本の指揮権の独立が守られるかも注視しなければならない。

 圧倒的な情報力を持つ米軍に従うだけになる可能性がある。

 司令部は、反撃能力(敵基地攻撃能力)を有する長射程ミサイルの運用も担う。自衛隊単独での衛星などを使った標的情報の収集には限界があり、米側から情報提供を受けざるを得ない。

 反撃能力は、国際法違反となる先制攻撃につながりかねないと指摘される。米軍の情報に頼るだけでは、専守防衛との整合性に基づいた判断ができるのか心配だ。

 トランプ米大統領が、日米安全保障条約に不満を述べたことも懸念される。在日米軍強化の停止を検討しているとも報じられ、アジア太平洋地域の抑止力に影響を及ぼす恐れがある。

 日米安保は日本の安全保障体制の基軸だ。国民が安心して暮らせる環境を失うことがないように、日本政府は米国に働きかけていかねばならない。