まもなく「母の日」が来る。商業主義に踊らされるような気がして、この日に特別なことなどしてこなかった。しゃれだと言って電話くらいすればよかったと、今は思う

▼ちょっとした経緯で実母と養母がいる。ともに90歳を超えた。県内の別々の高齢者施設に入っている。言葉を発することも、体を起こすことも、もうできない。面会に行くたび職員さんに「よろしくお願いします」と伝え、帰ってくる

▼面会は新型ウイルスの流行期に全くできなくなった。条件付きで再開した後、制約は徐々に緩和されてきた。この春から一方の施設は15分の時間制限が30分に拡大した。もう一方は15分だけだが、居室での面会が可能になった

▼新型ウイルスが感染症法上の5類に移行して8日で2年。社会を揺るがしたウイルスの脅威は薄れたが、医療や介護の現場では警戒態勢が解かれていない。多くで面会制限は続く

▼重症化しやすい高齢者を預かる施設が、リスクを極力排除しようと考えるのは当然かもしれない。流行時には私生活を犠牲にして感染予防に心を砕いたスタッフもいたはず。頭を下げるしかない、のだが…

▼入所者が親であれ、つれあいであれ、兄弟姉妹であれ、高齢ならば残された時間がどれほどあるかを考える。そろそろ面会の制約を撤廃できないものか。施設を頼らざるを得ない人にとっては声にしづらい心情だろう。在宅で介護できない痛みがチクリと胸を刺す。孝行も恩返しも、できるうちにしておきたい。今更ながら。

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