分断をさらに深めるような批判の応酬ではなく、冷静な論戦が行われることを期待する。今回の選挙が、長引く混乱を収める機会となるか注目したい。
尹(ユン)錫悦(ソンニョル)前大統領の罷免に伴う韓国大統領選が選挙運動期間に入った。6月3日の投開票まで激しい選挙戦が予想される。
革新系最大野党「共に民主党」の李(イ)在明(ジェミョン)前代表、保守系与党「国民の力」の金(キム)文洙(ムンス)前雇用労働相ら7人が争う構図となった。
第一声で李氏は「破壊された経済を立て直す」と訴え、金氏は「働く人が幸せを感じられる国にする」と宣言した。
昨年12月に尹氏が唐突に「非常戒厳」を宣言したことから、野党が多数を占める国会は尹氏を弾劾訴追した。今年4月に憲法裁判所が罷免の決定を下すまで、韓国国内は混乱を極めた。
選挙戦では深刻化した分断や対立をどう乗り越え、国を率いていくのかが問われる。
気になるのは選挙戦が滞ることなく進むかどうかだ。
与党側は公認候補決定で混迷した。党大会で金氏が選ばれたが、党執行部はその後に無所属で出馬表明した韓(ハン)悳洙(ドクス)前首相への変更を強行しようとした。
しかし、強引な手法は反発を招き、変更は党員投票で否決された。韓氏は出馬を見送り、金氏への一本化が決まった。
党員投票などを経て正式に決まった候補を、党執行部の一存で差し替えようとする手法に批判が集まったのは当然だ。
一方、李氏は戒厳令以降、尹氏らへの対決姿勢を鮮明にすることで、求心力を高めてきた。
その李氏にとって最大のリスクは5件の刑事裁判を抱えていることだ。韓国最高裁は、公職選挙法違反罪について、有罪が相当と判断し、二審の無罪判決を破棄して高裁に差し戻した。
李氏側は「最高裁による不当な介入だ」と訴えているが、大統領としての「適格性」を疑われる懸念は消えない。
選挙戦が激しさを増す中で、韓国国内の分断がこれ以上広がらないか気がかりだ。
2022年の前回選では尹氏が史上最も僅差で李氏を破った。激烈な選挙戦は、以前から指摘される保守と革新、地域間、世代間の争いに加え、特に若い世代で男女間の分断を招いた。
尹氏は当選後、「国民の統合を最優先する」と対立解消を掲げたが成果は出ず、自身の戒厳令により、むしろ深刻化させた。
戒厳令から5カ月余り、韓国政治は停滞している。この間に発足したトランプ米政権による関税問題や、核開発を進める北朝鮮、軍備増強を図る中国など、向き合うべき課題は多い。
これらにどう対処するのか、政策論争こそが求められている。