インターネット上で差別情報を拡散することに「ノー」を突きつける司法判断が、また一つ積み重なった。被差別部落の人々の人権をどう守るかを社会全体で考える機会としたい。

 川崎市の出版社「示現舎(じげんしゃ)」の代表がウェブサイト上で、被差別部落の地名や建物などの写真を掲載したなどとして、さいたま地裁は判決で、埼玉県内に関わる記事計28本の削除と、原告の精神的苦痛に対する賠償を命じた。

 裁判長は記事について「不当な差別を受けることなく、平穏な生活を送ることができる人格的な利益が侵害された」と指摘した。人に「差別されない権利」があることを認めた当然の判決だ。

 このサイトには、本県の多くの地域もさらされている。地域住民らが記事削除と損害賠償を求めて新潟地裁に提訴している。

 自身の名前や写真が無断でネットに公開されたという新発田市の原告女性は、新潟地裁の口頭弁論で「家族らの命と生活を守らなければいけない。差別を助長、拡散する行為は絶対許せない」と述べた。切実な訴えである。

 被差別部落を書籍やサイトでさらす示現舎の行為は2023年6月の東京高裁判決で違法とされ、高裁はサイトの該当部分削除や出版禁止を命じた。判決は24年に最高裁決定で確定した。

 看過できないのは、示現舎の代表はその後もサイトの運営を続け、被差別部落を特定する記事の掲載をやめていないことだ。司法判断を受け止めず、人権侵害を続けていることに憤りを覚える。

 権利を侵害されている人々の恐怖感や悲しみは、察するに余りある。差別を拡散する行為は即刻やめるべきだ。

 被差別部落がどこかという情報は、人権侵害につながる身元調査などに悪用されてきた。その地域の出身者が就職や結婚で差別を受けることがいまだにある。

 背景に、社会に依然はびこる偏見や差別意識があるだろう。

 県が昨年まとめた人権意識についての県民アンケート調査結果では、被差別部落出身者らへの身元調査について「よくないことだと思うが、ある程度はしかたがないことだと思う」という回答が45・7%と半数近くに上った。

 県内には人権侵害を許容する風潮があると言わざるを得ないことは、残念でならない。

 被差別部落を特定する情報がネット上に掲載されれば、検索が容易になる上、半永久的に情報が残る「デジタルタトゥー」と呼ばれる状態になるリスクがある。

 ネットに掲載された差別情報を速やかに削除できるようにするなど、拡散を防ぐための仕組み作りが急がれる。

 同時に、社会全体で人権を守るという意識を醸成するための方策も考えていかなければならない。