安全性についての課題を先送りしたままの見切り発車だ。原発事故のリスクから住民を守れるのか、後世に責任を負えるのか。知事の判断はなお拙速である。
花角英世知事は23日、経済産業省で赤沢亮正経産相と面会し、東京電力柏崎刈羽原発の6、7号機の再稼働に同意すると伝えた。
これで再稼働に必要な地元同意手続きが完了した。東電は来年1月20日に6号機を再稼働させる方針を固めた。
花角氏は、再稼働を容認する上で「原発へのテロ対策」「避難道路の早期整備」など7項目の確約を国に求めていた。
赤沢氏は避難道路について「できる限り速やかに」などと回答した。これを受け花角氏は再稼働を了承する考えを伝えた。高市早苗首相は花角氏に「決断に心から敬意を表する」と述べた。
ただし、確約がすぐさま安全につながるわけではない。
テロ対策施設の設置時期は不透明だ。7号機の対策施設は大幅に遅れる見通しで、東電は2029年9月まで設置猶予がある6号機の再稼働を優先する。
6号機は猶予されているだけで、必要な施設が設置されていない危うさは7号機と同じである。
原発から6方向に延びる避難道路は全額国費で整備されるが、何年後に使えるかは見通せず、避難の実効性は担保されていない。
そもそも避難道路があれば安全とは限らない。24年1月に起きた能登半島地震に学ぶべきである。
北陸電力志賀原発の周辺では、道路が寸断された。家屋の倒壊も相次いだ。
地震や津波と原発事故が重なる複合災害時、国の指針では5~30キロ圏は住宅などの屋内に退避し、放射線量に応じて避難するが、退避も避難も難しい状況が起き得ることを表している。
東電福島第1原発の事故がもたらした未曽有の被害を思い出さねばならない。
事故では最大16万人超が福島県内外へ避難した。本県への避難は一時9千人を超えた。
14年がたった今もなお福島県から県外への避難者は1万9千人以上に上る。繰り返してはならない被害である。
教訓を見つめると同時に、将来にも目を向けたい。原発は後世にリスクを負わせる施設である。
6号機の使用済み核燃料プールの貯蔵率は90%前後に達している。ここまでたまるのは、使用済み核燃料を再処理して再利用する国の核燃料サイクル計画がうまくいっていないからだ。
高市政権は原子力活用に力点を置くが、「核のごみ」の最終処分は見通せていないのが現実だ。
優先すべきは経済論理でなく安全性である。県民の不安を置き去りにしていないか、知事に改めて問いたい。
